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LOVE FOOL・前編

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自分の罪を暴かれたにしては、どこか勝ち誇った余裕の笑みで女は更に民衆を煽る。




「生き返った途端玉座が惜しくなった王子はテセウス一人を殺す為、
その魔術師に城ごと破壊させた。
お前達は下らない王族争いに巻き込まれ踊らされているに過ぎない」

「え、俺?」
見知らぬ女から突然、話題に出されヴィヴィアンが自分を指差す。
城を破壊したいと言ったが指輪無しでは何も出来ないのに?

『!』
まるで魔女の演説が合図だったかの様に。
今まで蓄積された悲しみと怒りは黒い殺意に変わりセテウス一人に向けられる。
元より黒薔薇に毒された街の人々に考える力は削がれていた。
ただ操作された感情のままに武器を掲げ懸命に城痕を護ろうとする兵士を薙ぎ倒す。

「嘘だ!皆、待って!」
国を混乱させ、王族を殺したテロリスト。
彼等の道徳も理性も思考も、黒く塗り変えられ全ては茨に操られる人形でしかない。
一人、また一人と住民は憑かれた瞳で此方に迫りくる。
身を呈し、防ごうとする騎士の中にもそれは広がって行く。もうアステリオスの声も届かないのだ。
「ユースティティア…」
「王を護るのが務めだと言った筈」
何か見えない邪悪な力が働いているのだという感覚はある。
テセウスが剣を抜くと、庇う様にユースティティアも身を重ねた。

(お前等のその友情に吐き気がする。死ねよ、クズ共)
これが「ブラック・バカラ」の能力。
そしてその真実に気が付く唯一の人間、アストライアは排除した。
床を震わせ偽りの王を殺しに来る群衆を、離れた場所から愉快そうに眺め、緑薔薇は煙管に陽を着けた。壁に凭れ、すらりと伸びた足を交差させる。
王子が生き返ったのは誤算だったが、結果的には「支配者」も満足するだろう。
零れる嗤いを隠しもせず、くつくつ身を震わすアリアドネに向かって護身に帯刀していた湾曲の
小剣を構えたアステリオスが胸を目掛け、走る。
「この、魔女め!」

「二人がいかに強い剣士だろうと街の人間全てと戦って勝てる筈が無い。
お前は残り少ない時間足掻いて死ぬがいいさ、餓鬼」

身を護るのに精一杯の騎士はこちらに向かってくる余裕は無い。
王子が怒り狂って飛び掛かるのは容易に想像がつく。
瞳に一杯の涙を溜めた少年の腹を蹴り上げると転がる躰を掴み、火の着いた灰を小さな手に
押し当てる。
「――――っ!」
悲鳴を懸命に殺すアステリオスに口を曲げ、更に追い打ちを加えようと腕を引き上げ宙に吊るす。
見せしめにしようと掲げ、眼を背ける顔を強引に振り向かせ広間の殺し合いを直視させそうと顔を上げる。
そんな魔女の指の間からほろりと煙管が落ちた。
「なに…?」

「計算が間違っている。
これはお前と騎士が二人、それとアステリオス。三対一の戦いだ」

訳も無く偉そうな声に振り向くと真っ直ぐに翳した右の親指を飾る紅玉から空中に伸びた
赤い一閃が空間を絶ち、裂け目から鰐の人獣兵の一群がぞろぞろと這い出していた。
数は対等。
大きく裂けた口を広げ、奇怪な声で鳴くだけで戦意を削ぐ。
突如、現れた異形の軍隊は風貌から恐怖を与え、圧倒的な剣さばきで次々に兵士と民衆の双方を
地に降伏させ、玉座を護る。
彼等は百戦錬磨の兵士なのだ。

「どいつもこいつも鬱陶しいんだよ、王とか主従とかどうでも良い!
二つ国の支配者、赤冠の女主人。道を切り開く者、ネイト。
俺の為にこの暴動を征服しろ」

『なんて暴君。素敵ですわ、我が王』
深紅のルビーに宿るのは「国家」を守護する女王。
彼女は安政を揺るがす不浄の力を制圧する。
椅子の脚を従属達に持ち上げさせ、柔らかいクッションの敷き詰められた長椅子に横たわるネイトは魅惑的に微笑を浮かべヴィヴィアンヴァルツの掌に口づけた。

「魔術師!貴様何をした!?」
忌々しいと、細く吊りあがった眼に激高を浮かべアステリオスを投げ捨てる緑薔薇は、
涼しく此方を見下す男に爪を伸ばす。
「死ね!」

いつもなら此処で割り込んでくる騎士が居ない。
機敏に身をかわすスキルも無いヴィヴィアンはびくりと肩を浮かせて背後の壁に張り付いた。
「…!」
「ラモナの敵…」
「黒や緑、「薔薇の呪い」とは何なのか吐いて貰おうか?アリアドネ」

ヴィヴィアンの細い首に両手をかけ締め上げる、女の両肩から二人の剣が腕を斬り落そうと伸びていた。

本体の破壊。破壊すれば解ける。
痛む躰を起こし、アステリオスはヴィヴィアンが言った言葉を思い出す。
床に手を着き、テセウスとユースティティアの許に寄り掛かるとけほけほと咽ながら、ヴィヴィアンが銃を滑らせた。
「お前が破壊しろ。これが元凶だ、この女に魔術を使うほどの力は無い」
「はい!」
床を転がり、自分の脚に当たって留まる美しい銃。
緑の薔薇が彫り込まれ、茨が銃身に絡む繊細な造りだ。
じっと見ていると心が奪われる。

アステリオスは再びぎゅ、と瞼を閉じ、剣を真っ直ぐ突き立てた。

++

「これで呪いは解けた。アステリオスは死なない」
「有難うヴィヴィアン!」
ヴィヴィアンがきっぱりと言い切ると王子は跳ねる。
ぺろりと服をたくしあげると傷口から流れ続けていた血液が、嘘の様に留まっていた。
自分では判らないが、もしかすると弾丸も消えているのだろうか?
呪いが解けると数分前まで殺気だって居た人々も元に戻り、王族への無礼にひたすら詫びて
それぞれの生活に戻って行った。
今度は解けた呪いと王子の生還祝いの準備で慌ただしい。
黒い薔薇は全て取り払い、黄色やピンクの愛らしい小さな花が差し替えられた。
穏やかで快活な国。これが本来のラモナなのだ。


一方、目の前で武具を破壊された魔女は、へたり込み呆然と二つに割れた銃を見つめ口を開かない。
力の失せた魔女に殺す価値は無く、哀れとしか浮かばない。
彼女は罪を償う為、ラモナで投獄されるだろう。

髪飾りの緑薔薇がはらり、はらりと花弁を散らし、腐って落ちる。
魔女はそれを掌で掬い上げ、それを握り締め喉を鳴らした。
「何が可笑しい?」
テセウスが冷徹に問う。
アリアドネは暗い眼光で、ゆっくりとヴィヴィアンを見上げた。

「…呪われてる間は不死身だけれど、呪いの効果が解けた今。
あの男はもう生きちゃいないだろうね」

含みの在る物言いで「あの男」と呼ぶ緑薔薇に、はっと顔色が変わる。
「アストに何をした!」
まるで他人事だと澄ました顔が初めて見せる、ヴィヴィアンの変化に魔女は唇を赤く裂く。
「さあ、どこかの瓦礫に埋もれているか、地下の水路に沈んでいるか。どっちにしても長くはない」

この広い城で、まして崩れた壁の中では地図も役に立たない。
テセウス、とユースティティアの脳裏に冷たくなった屍の姿が浮かぶ。
「どこまでも性根の腐った女だ…!」
だから、首を突っ込むなと言ったんだ。
妹の仇を取ると云っていたどこか影の在る微笑みを思い返し、若き王は力任せに瓦礫を踏み砕く。

「せいぜい探し回るがいいさ、ヴィヴィアンヴァルツ!あははははっ!!」

こんな時、何処をどう探せばいいのかも知らない。
狂った声でけたたましく嗤う声を背中で聞きながら、ヴィヴィアンヴァルツは自分でも驚くほど。
作品名:LOVE FOOL・前編 作家名:弥彦 亨