からっ風と、繭の郷の子守唄 第71話~75話
「なにしているのよ。まっ昼間から。
意味がわかりません。いい女を追跡中だなんて、何がどうしたの?」
携帯を片手に、美和子がアーケード通りの北から現れる。
「大きなつばの麦わら帽子を持った、気になる女の人がいたの。
和風の巾着も持っていたわ。
ブルーのワンピースを着ていたけど、あなたとすれ違わなかったかしら?」
「はっきりした特徴があるわねぇ。年齢は、いくつぐらいかしら?」
「あたしと同じくらいか、少し上だと思う。
ベリーショートの髪型です。後ろから見たので、顔はよく見えなかった」
「顔も見えなかったのに、なんでいい女と思うのよ」
「なんとなく雰囲気が良かった。
この間も、たまたま見かけたのよ。
呑竜マーケットの路地から出てきたところを。
今日もまた、この路地の中へ入っていったのよ。
見失う距離じやないと思ったのに、追いついたと思ったら、消えちゃった。
変よねぇ。でもね、気になる女なのよ」
「不思議なことがあるものです。
呑竜マーケットの新しいママさんか、お店の従業員さんじゃないかしら。
このあたりでよく見かけて、行き会うということなら」
「水商売をするような女には、見えません。
美和ちゃんや、あたしたちの雰囲気ともまったく別物です。
清楚な感じが漂っていたわ。、
女として、無視できないような雰囲気を持っているのよ。
くやしいな、やっぱり、とても気になるな」
「悪いわね、私が清楚な女でなくて。
愛人と人妻なら、そう言う意味でいえば、誰が見ても汚れた女です。
貞ちゃんとおなじ30歳くらいで、汚れた雰囲気を持っていない女姓か。
なるほど。清純派の登場ですか、たしかに強敵です。
あたらしい魅力を持った女性の登場は、たしかに脅威です。
でも、まったくの赤の他人でしょ。
そんな女性を、気にしてもしかたないじゃないの」
「でも、なんて言うか。妙に怪しい胸騒ぎがするの。
わたしたちの間に、割り込んで来なければいいなと思うような、
そんな、怪しさを感じるの」
「康平に、あたらしい恋人でも出来たような口ぶりですね」
「まさかぁ。あの康平に限っては、それはありえないでしょう。
ただなんとなく、気になっただけの話です。
ただの危惧かもしれないし、我々には何の関係もありません
こんな処で立ち話をしていても仕方ありません。
で、なんなの、美和ちゃんの急なお話って。
わざわざ呼び出されるなんて、康平のお店以外では、初めてです。
ゆっくりしましょう。そのあたりで」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第71話~75話 作家名:落合順平