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からっ風と、繭の郷の子守唄 第71話~75話

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 ランチを終えた貞園が、電話で美和子から呼び出される。
早すぎる時間を調節するため、貞園が、ウインドウショッピングをはじめる。

 商店街は、夏休み商戦の真っ只中に突入している。
原色の水着や、リゾートで着るジュニアの洋服が前面に出ている。
お気に入りのショップでも、夏休み用品のセールがはじまっている。
群馬から海の有る茨城県まで、はじめての高速道路が開通した影響も有る。
海までの時間が大幅に短縮されたことで、海水浴がちょっとした
ブームの兆しを見せている。

 (わたしの欲しいモノが、海水浴に負けてお店の奥へ撤退している・・・)

 ショップの奥へ移動しようとした時。
見覚えのある麦わら帽子が、貞園の視線の中を横切っていく。

 (あら。・・・・見覚えのある、麦わら帽子です。
 先日は目深に被っていたため、顔がよく見えなかったけれど、
 今日は胸に抱えているねぇ。
 短い髪です。・・・ベリーショートと言う髪型かしら。
 ちよっと小洒落た雰囲気の持ち主ですねぇ。
 色気はないけれど、なんとなく成熟感が漂っています。
 ということは、もう小娘の年齢ではありません。
 似た年頃か、もう少し上かもしれません。
 今日で2度目の遭遇だけど、なんとなく気になる女ですねぇ・・・・
 いったいどこの、何者でしょう?)

 後ろ姿を追うように、貞園がショップから出る。
小さな花柄のブルーのワンピースが、良く似合っている。
先を急ぐ様子も見せず、光沢の良い布袋を下げて、アーケードを
北に向かって歩いて行く。

 (へぇぇ・・・洒落た布袋です。
 『巾着』と言うのかしら。生地ががシルクのような輝いていますねぇ。
 洋服に和風もアイテムか・・・・
 サマになっているから、なんとも不思議です。)

 興味をおぼえた貞園が、麦わら帽子のあとを着いて行く。
その。バッグの中の携帯が、軽やかに鳴りはじめた。(誰だろう。今頃)
人ごみの中を見え隠れしていく女の背中を、じっと目で追いながら、
貞園が携帯を取り出す。
表示されているのは、美和子の番号だ。

 『もしもし、貞ちゃん。
 予定よりも早く着いちゃった。
 天神通りのアーケードを、北から歩き始めたところです。
 貞ちゃんは、いま、どこかしら?』

 『あたしも早めに着いた。アーケードの真ん中で、立ち往生中よ。
 ある女を追跡中なの。悪いわね、また後でかけ直します。
 訳が有って、先を急ぐのよ、あたし』

 『もしもし。どうなってんのよ、貞ちゃん。
 探偵社じゃあるまいし、なにやってんのよ、真っ昼間から』

 『とにかく事は至急を要するの。ほら、女の姿が見えなくなっちゃうわ。』


 貞園が、あわてて携帯を切る。
前方に、ブルーのワンピースを着た女の姿を探す。
呑竜マーケットの角を曲がろうとしている、麦わら帽子の女の姿が
飛び込んでくる。
(えっ・・・いきなり、呑竜マーケットの角を曲がったわ。
何の用事で、飲み屋横丁へ入っていくんだろう・・・・おかしいわねぇ)
小走りの貞園が、呑竜マーケットの入口まで走り寄る。


 呑竜マーケットの路地で、この時間帯、営業している店舗は一軒もない。
80mに満たない通り抜けの路地は、しんと静まり返っている。
数秒後、貞園が女性が消えていった路地の角へ、到着する。
(あら。おかしいですねぇ、女性の姿が消えちゃった・・・
たしかにここを曲がったはずなのに。どこへ消えたんでしょう、おかしいな)
狐につままれたかのように呆然と、貞園が、呑竜マーケットの入口で
立ちすくむ。