歪んだたより 探偵奇談4
「伊吹先輩」
瑞が呼ぶ。呼ばれて我に返る。いつの間にか郁も戻っていた。セミの声が戻ってくる。ぼんやりしていたようだ。
「三人立ち練習しませんか?」
「あたし、まだタイミングとかよくわかんなくて」
「慣れりゃすぐだよ。先輩、頼みます」
「わかった」
練習熱心な二人の指導に戻ることにする。
頭を悩ませる問題は消えないけれど、いまは無心に弓を引きたい気分だった。
「暑い~海とか行きたい~」
「もうクラゲ出るだろ、お盆だし」
「おまえら集中しろー」
夏は過ぎて、やがて秋が音もなくやってくる。
伊吹の心に、ほどけない結び目を残して。
.
作品名:歪んだたより 探偵奇談4 作家名:ひなた眞白