僕の好きな彼女
冬の夜の中に彼女と二人、僕は寒さの中で座り込む。
白々としたLEDの明かりだけが僕らを照らすすべての輝きだった。
ふとひらりと何かが目の前を舞った。
見上げると空からは、白い雪が降り始めていた。
それは無数の輝きを失った動く白い点のようで、ぱらぱらとひたすら地上へ注ぐのに、そこに全く音がしないのが不思議にすら思えた。
横を見ると彼女も空を見上げていた。
わあ、というように桜色をした唇が薄く開いていた。
絵画のように彼女が、灰色のベンチに腰掛けたまま空を見上げて目を見開いている。
その様子がまるではじめて雪を見る子供のように見えて、僕は何となく彼女の肩に手を伸ばしかけて、止めた。
そこに、雪が積もることはなかったからだ。
無機物の雪は彼女の中を通り過ぎた。
『波』の理屈はきっと生者である僕には分からない。
でも、伸ばしかけた僕の手の上に降りかかった雪は一瞬ではあったがその上に乗り、解けて小さな水滴になった。
彼女に注ぐ雪は違った。
彼女の存在を通り過ぎて、足下にばかり降り注いだ。
なんでだか分からないが、僕にはそれが無性に悲しかった。
自分ではない誰かのことでそんなに悲しい気持ちになったことは、僕にはそれまでいちども無かった。