僕の好きな彼女
「違うよ」
と彼女がぼそりと呟いた。
僕はそのひとことに、ぎくりと心中のやましいことを見破られたかのような気分になった。
「あなたに何かをひどいことをして欲しいとかじゃない。あいつを見つけたとしても、どうにかして欲しいとか思ってない」
そして、彼女は正確に僕の心中を見抜いていた。
だから、
「じゃあ」
と僕は思うままに問うた。
「君は僕に、何をして欲しいの?」
すると彼女は、俯いて囁いた。
「あなたには、身体がある。私にはもう無いけど、それって実はとても素晴らしいことなの。あらゆるヒトに声が掛けられる。モノに触れて、感じることが出来る。ある場所で何かを探したり、求めたりするのに、それって実はきっと必要不可欠な要素なの」
「それじゃ、君は相手を見つけてどうするのさ」
僕は重ねて彼女にそう問いかけた。
どんな答えを返すのか、何となく僕には興味が湧いていた。
「したいことは、ひとつだけ」
彼女はためらわずそう答えた。
「さっき私は、私の言葉が届いたのはあなただけだって言ったよね。でも、私の言葉が届くヒトがきっと『もうひとり』は確実にいるの。そのヒトは『私の最期』に関係があるヒト。私の生命を奪った、私の生命そのものに縁の深いヒト。
――私の声は、きっと『犯人』には届くの。
それが私の生命が合わせた『最期のラジオのチューニング』だから。
私は私の命を奪った『アイツと話がしたい』。
『なんでそんなことをしたのか』って問いただしたい。
私が望んでいるのは、きっとそんなことだけ」