僕の好きな彼女
そこまで言ったところで、彼女が言葉を不意に切った。
そして、ふいっと目をそらし、横を向いた。
怪訝に思った僕が少しだけのぞき込むようにその表情を見ると、
――彼女は、泣いていた。
『幽霊が泣く』なんて、その時まで僕は考えもしなかった。
だけど彼女は掛け値なしの泣き顔で、堪えきれない涙が頬を伝うのに任せていた。
僕はそれで何となく目をそらした。
何となく女の子の泣き顔をのぞき込むのは失礼な気がしたし、瞬間、実はその涙に心の中の何かがやられて、胸が痛んだからでもあった。
だから僕は少し話を変えようと思った。
それで、次の質問を彼女に投げかけた。
「じゃ、どうやって探すんだ?君を殺した犯人とやらを。相手は君の知り合いか何か?」
すると、彼女は首を横に小さく振った。
「違う。でも分かるの。相手が近づいたとき、私には」
そしてそう言った。
「分かる?」
だから僕は尋ね返した。
「それも、死んでから分かったことのひとつかも知れない。世界はいろんな『波』で出来ているの。光が波打って進むのは知ってると思うけど、私たちの姿もそれに近くて、姿が見えたり声が聞こえたりするのはその『波』の形が似ていたり、呼び合ったりしたときなんだと思う。
私は私が死んだとき、私を殺した相手の『波』を最後に感じた。
だから、あの『波』の形は絶対に忘れない。
近づけば分かるし、会えば見間違うこともないと思う」
彼女はそこでまた一度言葉を句切った。
そこまではだから、僕も理解した。
「だけど」
僕はそこで、疑問に持ったことを尋ねた。
「君は相手を見つけて、どうするつもりなの?
触れることも出来ないなら、例えばだけど復讐をするとかそんなことも無理だろう?――」
と、そこまで言ったところで、僕の背筋に寒いものが走った。
彼女は幽霊で『触れること』が出来ない。
そんな彼女は『実体のある僕』に『犯人捜しを手伝って欲しい』と懇願する。
ならば、
僕がすることは、
求められていることは、
一体、なんだというのだろう?