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からっ風と、繭の郷の子守唄 第66話~70話

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 待つこと10分あまり。
のんびりしていた空気の中、突如どっしりとした、きわめて存在感のある
焼きそばが、千尋の目の前に運ばれてきた。
「何これ!」「黒い!」「しかも太い!!!」
目の前に現れた、異様な太田市の焼きそばに、千尋の目が真ん丸になる。
焼きそばという概念をはるかに超えた、まったく別物だ。

 普通の焼きそばの、二倍近くはあろうかという太い麺。
何よりも、麺を染めあげている黒い色に目を奪われる。
瞬間的に、イカ墨スパゲティの黒さを思い出す。
だが、焼きそばの麺として見たとき、やはり常軌を超える黒さが有る。

 焼きそばの、ソースがからんだ麺のイメージから比べてみても、
この太田焼きそばは、あまりにも黒が濃厚すぎる
「黒すぎます・・・」思わず、千尋が絶句する。

 衝撃を受けたあと、ようやく千尋が落ち着きを取り戻す。
真っ黒の焼きそばへ、おそるおそる箸を出していく。
ずっしりした感じの麺を、箸でこわごわ持ちあげる。
たぐりよせるようにして、口の中に放り込む。
ハフハフと麺をたぐりよせ。もぐもぐと咀嚼をしていく。
千尋が、初めて味わう真っ黒い焼きそばの味覚に、集中していく。

 「あら・・・・」

 最初の衝撃が、味への驚きに変る。
予想外の美味しさに、千尋の頬へ微笑みが戻って来る。
見た目のインパクトだけで、味はおそらく二流だろうとタカをくくっていた。
美味しさは、千尋の予想をはるかに超えていた。
千尋の顔に食いしん坊の雰囲気が、本格的に戻って来た。

 「美味しい!
 見かけにすっかり、騙されました。
 B級グルメどころか、C級グルメだわなんて、勝手に思い込んでいました。
 目からウロコの美味しさです。
 口の中に広がるソースの香り、キャベツの甘みも素敵です。
 もっちりとしている極太麺の味わいも、文句のつけようがありません。
 色から想像した、しょっぱすぎる感じもありません。
 私、これならやみつきになりそうです」

 期待していなかったことへの、反動もあるのだろう。
思わぬ美味しさに、千尋の箸が止まらなくなった。
箸は一向に止まらない。
次から次へ黒い麺をたぐり寄せて、あっというまに千尋が完食していく。
独特の甘みのあるソースは、飽きがこない。
千尋の顔に、満足の笑みがひろがっていく。

 千尋の皿の上に残るのは、青海苔の小さなかけらだけになった。
程よい感じの満足感が、千尋の全身から溢れてきた。
ちょうどそこへ、焼きまんじゅうと、待ちかねたトコロテンが
『お待ちどうさま』とやって来た。
食いしん坊の千尋の喜びが、最高点へ達していく。
千尋の顔から、笑顔がはちきれそうだ・・・