小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

からっ風と、繭の郷の子守唄 第66話~70話

INDEX|8ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 


 太田市は工業の町として、古くから栄えてきた。
仕事を求めて、各地からたくさんの人たちが働きにやって来た。
雪に閉ざされる冬場。東北地方から働きに来る人たちも多かったという。
東北といえば横手焼きそばや黒石つゆ焼きそば、石巻焼きそば、
なみえ焼きそばなどが有名だ。
日常食として、焼きそばが消費される地域として知られている。

 横手焼きそばで知られる秋田県からも、たくさんの人が出稼ぎに来た。
そうしたひとたちがごく自然に、焼きそばの文化を持ち込んだ。
汁のない焼きそばは伸びることがない。
安くてボリュームがあり、手軽に腹が一杯になる。
こうしたことから、工場で働く工員たちの間にひろく普及していく。

 やがて定食屋や駄菓子屋でも、提供されるようになる。
今では、太田市内で焼きそばを提供する店は、80軒を越えるといわれている。
いかに地元の人々に愛されているかが、良く分かる数字だ。
観光にもひと役かっている。
昭和20~30年代、「子育て呑龍」で名で知られている大光院の参道に、
数多くの焼そば屋が軒を並べた。

 太田焼きそばを代表する店と言えば、ここをあげる人も多い老舗に
康平のスクーターが到着する。
混んでいる時は、ずいぶん待たされる。
通い慣れている人は、電話であらかじめ注文しておくという裏技も有る。
店で食べてもよいが、持ち帰るほうが手っ取り早いという人もいる。

 覚悟はしていたが、意外なことに店が空いている。
お昼の時間をかなり過ぎていたためか、奇跡的に空席が有る。
そ席へ座った康平が、2人前の焼きそばと焼きまんじゅうの注文する。
メニューを見つめていた千尋が、『ごめん。ちょっと待って。うふふ』と
意味ありそうに微笑む。

 「ねぇぇ。トコロテンが、120円ですって!。
 なぜかお値段に食欲をそそられてしまいます・・・・こちらも下さい」

 大きな窓に囲まれた店内に、外から夏の日差しがさしこむ。
店内は、ひろく明るい。
チャン、チャン、チャン、鉄板にヘラがあたる音が厨房から響いてくる。、
千尋が歩きつかれた足を伸ばす。
運転の疲れを感じた康平も、コキコキと首を左右に振る。
ここへきてようやく、2人にのんびりできる時間がおとずれた。
肩から力が抜けていくような、そんな、まったりとした時間帯がやってきた。