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からっ風と、繭の郷の子守唄 第66話~70話

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 「足利市の高台にある織姫神社に祀られている、祭神は、
 ヤマトから伝えられたものです。
 機織を司る天御鉾命(あめのみ ほこのみこと)と、
 天八千々姫命(あめのやちち ひめのみこと)の、2人です。
 もともとは、伊勢国の渡会郡出井の郷にある、御織殿の神さまです。
 ここへ祀られて、1200年。
 いまも足利市の全ての産業の守護神として、2人の神様は崇拝されています」

 「ずいぶん詳しいですね、康平くん。
 お料理ばかりか、古代史にも造詣をお持ちです。博学ですねぇ」

 「ほとんどが、徳次郎爺さんからの受け売りです。
 徳次郎爺さんは農家のくせに、中国に伝わる易学の研究が大好きです。
 最近はさらに、古代史に興味を持ち始めてきました。
 発掘調査が始まると聞けば、手弁当で応援に駆けつけます。
 出かけてくるたびに、新しい情報を聞かされる羽目になります。
 いやでも古代史にも詳しくなります」

 「そういうことですか。それなら、私もひとつ。
 嵯峨野で、美術学校に通っていた頃に聞いたはなしです。
 丹波の山里につたわる、桑の話です。
 和泉式部が、旅のとちゅうで山里に立ち寄りました。
 京の都から、丹後国にいる、夫のもとへ行く途中のことです。
 ひどい嵐がやってきました。何日も大雨が降り続きます。
 川はあふれ、村にあった橋は、みんな流されてしまいます。
 和泉式部は村から出ることができなくなってしまいます。
 困りましたが、どうすることもできません。
 そのころはひとつの橋をかけるに、何年もかかりました。
 親切な村の人たちが、式部に家を貸してくれました。
 それだけでなく、畑でとれた野菜や、山でとれたいのししの肉や、
 お米など、かわるがわる食べ物も持ってきてくれました。
 式部はなにひとつ不自由なく、安心して過ごすことができました。

 日がたつにつれて、村のようすがわかってきました。
 もともとが小さな山の村です。
 ただでさえ少ない田畑が大雨で荒れて、作物も思うようにできません。
 それでも村人たちは、自分の食べる分を減らして、
 式部に食べ物を運んできます。
 何とかして村を豊かにできないものか。式部は考えました。
 そして村人を集めると、こんなふうに話しました。
 「桑(くわ)の木を植えてみませんか。
 蚕(かいこ)を育てて、絹糸を作るのです。」

 村の人たちは、これまで蚕など見たこともありません。
 「わしらにできるんやろか。」
 「お金がもうかるんやろか。」
 「糸なんか、どないしてつくったらええんやろ。」
 口々に話していると、村でいちばんの年寄りが立ち上がります。
 「初めてのことやけど、式部さんが言わはるんやからまちがいないやろ。
 みんなで力合わせて、頑張ろうやないか。」