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幕間10分(悠里の章)

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「私ね、付き合ってた訳じゃあないんですけど、告白された人に『実は違う人が好きだ』って言われたんです、そして」
「そして……?」
「実は同じバンドの別の子が好きだって言われたんですよ」
「そりゃ、悪い男だねえ。こんな子を惑わすなんて……」
「いや、それは優柔不断で答えを出さなかったあたしが悪いんです。だから、いいんです。あたしも、その二人はとても似合ってるし、応援したいくらい。でもね、ひとつだけ納得いかないんです……」
「でも?」
信洋は悠里の含み笑いに次の言葉を期待すると、つられて頬の肉が少し下がった。
「今こうやって待ってる理由ですよ」悠里は予備のスティックを手にすると一番高い位置のシンバルを叩いた「待ってる理由、その二人は今デート中なんです……」
「それでこうして待ってるの?」
悠里が黙って頷くと一瞬の間をおいて二人は揃って笑いだした。

「だからココだけの話にしてってことね?」
「そうです。これは冗談ですよ、愚痴じゃないですからね。少しは和んでくれましたか?」
 悠里は目を逸らして口に手を当てた。狙い通りの反応に満足している。
「ああ、とっても。話ができてよかったよ。そうだ、名前聞いてなかった。キミはなんて名前?」
「倉泉悠里です」
「日本語の名前なんだ」
「はい、ほとんど日本人ですから」
無意識に眼鏡の縁を掻いた。いつもの仕草だ。
「ありがとう、悠里ちゃん。何か吹っ切れそうだよ」
 自然な少女の笑みに信洋は自然な笑顔で返した。確かに、やるせなさがここへ足を運んだのだが、そんな時でも楽しいと思える時間をくれたことに嬉しくなった。
「そうだ」彼女の兄と変わらない年齢の自分が貸しを作るのが許せず、信洋は自分のカバンを探り始めた。
「今度ライブするんだけど、チケットあげるからよかったら見においでよ」
「え、いいんですか?」
 悠里は目を大きく開き、チケットを受け取った。

作品名:幕間10分(悠里の章) 作家名:八馬八朔