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からっ風と、繭の郷の子守唄 第61話~65話

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 康平が、ひょいと脇道へ逸れていく。
大きな風よけ用の生垣を抜けていくと、ふたりの目の前が開ける。
開けた視界から、巨大な母屋が目に飛び込んできた。
明治維新の翌年、1869年に建てられた母屋だ。
「凄い・・・・」見上げた千尋の口から、思わず、驚きの声が漏れる。
母屋を見上げた千尋が、突然、康平の右腕を取る。
そのまま、恋人のようにからみついてしまう。

 「・・・大胆だねぇ。君は」と康平が、千尋の顔を見つめる。
千尋は軽く、「うふっ」と笑う。
出現した母屋の間口は22メートル。奥行き13メートルの総2階建て。
屋根の上に、養蚕農家の象徴、「やぐら」と呼ばれる小窓が3つ見える。
『清涼育』式の代表的な母屋だ。

 「2階の上に、幅10センチの板が、45センチの間隔で、
 すのこのように張った3階がある。
 そこから、はしごを使って上にあるやぐらまで上る。
 窓を開けるためだ
 桑かごなどの養蚕道具を、3階に収納していたそうだ。
 2階は広い。小学生のころは、近所の友達と追いかけっこや鬼ごっこ、
 隠れんぼなどをして遊んだと言う」

 「あら。ずいぶん詳しいのね。 
 話が長いと思ったら、いろいろ情報を仕入れてきたようです。
 やるじゃないの。もと赤城山最速の暴走族は」

 「君も五六から、余計な情報を仕入れてきたようだな。
 もう30歳だ。
 昔のように暴走などするもんか、命がいくつあっても足りなくなる」

 「10年前。
 台湾の極上ワインを載せて、赤城の最速のタイムを叩き出したと聞きました。
 ワインをこぼさずに、滑るように走り抜けたと絶賛していました。
 美人で、超ナイスバディなんですってねぇ・・・・
 台湾産のワインの方は」

 「あのやろう・・・・余計なことまで、ペラペラと喋りやがって」

 「バックシートってもう少し怖いかなと、実は緊張していました。
 感触の良さと柔らかいクッションに驚きました。
 安定感のあるスムーズな運転に、ちょっぴり感動を覚えました。
 4輪のドライブにも劣らない快適さと、開放感は、やみつきになりそうです。
 フォルツァというスクーターも、とってもお洒落で素敵です。
 スクーターという乗り物が、大好きになってしまいました」

 (ついでに、あなたも)と言いかけた千尋が、あわてて言葉を呑み込む。