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からっ風と、繭の郷の子守唄 第61話~65話

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 千尋が出会ったのは、インドアッサム地方に生息するヤママユガ科の
ムンガ蚕の糸で作られるものだ。
淡い褐色の繭は、繰糸後に美しい黄金色に変わるの。
そのため『ゴールデン・シルク』や『ゴールド・ムンガ』などと呼ばれている。

 日本と異なり、バナナや麦わらの灰汁を入れて煮繭する。
完成するまでの全工程を、すべて現地でおこなう。
そのため、生産量はごく少ない。
シルクといえば、白く洗練された絹糸をイメージするが、野生のカイコは
繭の大きさも色もさまざまで、同じものが少ない。
ゆえに、個性的であることはもちろん、付加価値の高い織物が誕生する。
蚕の種類と食べ物の違いで、様々な色と風合いが生まれる。

 ムガサンシルクは主にモクレンの葉を食べる。
アクの強い春の葉を食べて育った繭は、茶色系の『ゴールド・ムンガ』。
アクの弱い秋の葉を食べた繭は、白い『プラチナ・ムンガ』と呼ばれる。
ケヤキや栗、樫、クヌギやブナの新芽を食べる蚕から生産される
『ギッチャーシルク』は、大型で褐色がかっている。

 インドのカイコの大きさは、日本の蚕の1,5倍ほど有る。
日本の蚕が4~5g程度なのに対し、インドの野蚕は6gをこえるものも有る。
着物を1着作るのに必要な和服地の量を、1反と言う。
日本の蚕の場合、一反をつくるのために、2700頭の蚕が必要となるが、
インド野蚕は、2000頭前後で一反の生地が作れる。
 
 インドシルクに衝撃を受けた千尋は、絹について学びはじめる。
本来は、イラストかグラフイックの世界へ進むはずだった。
卒業を直前にして、千尋は自分の進路を変えた。
京都市内にある反物屋と、呉服屋巡りを始めてしまう。
たまたま、一軒の呉服屋が千尋を受け入れてくれた。
就職が決まったことが、やがて糸紡ぎの世界へ入るきっかけになる。

 長い絹の文化を持つ群馬へ注目するまで、それほど時間はかからない。
ネットで『座ぐり糸養成講座』という募集を見つけた瞬間から、千尋の
糸を紡ぐ人生がはじまる。

 「かつての養蚕業のたくさんの施設や、遺跡を見て回っているのは、
 群馬の生糸を肌で感じたいためです。
 私は、自分の5感で糸を紡ぎたいと願っています。
 将来、小さな工房を持ち、自分の手で蚕を育てたいと考えています。
 夢を実現するために、わたしは群馬へやってきました」

 「あなたはもう、その夢は実現しはじめているようですね。
 あなたの瞳は、希望に満ちています。
 まだ、いらしたのですねぇ。
 これほどまで情熱的に糸を紡ぐ女性が、この群馬にも。
 住所をお教えしますので、後で私の実家を訪ねて見てください。
 母がいまだに細々と『赤城の糸』を紡いでおります。
 噂で聞いていたのですが、あなたのことでしょうか?
 赤城の山麓を駆け回り、『赤城の糸』を紡ぐ女性たちを探して、
 黄金の糸を吐く『群馬黄金』の蚕を飼い始めたという、
 小さな頑張り屋さんというのは?」