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からっ風と、繭の郷の子守唄 第61話~65話

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 「うちの蚕でうまくいかなければ、1軒の養蚕農家を駄目にすることもある。
 夜も眠れないとはよく言ったもので、天候不順のときは、
 夜中でも温度調節に忙しい。
 自分が寝ていたせいで、蚕が起きてこなかったのでは、後で困るからのう。
 最初は、蚕種800グラムから面倒をみはじめた。
 だんだん拡大していき、最盛期には、3000グラムまでを手掛けた。
 春蚕(はるご)、夏、初秋、晩秋、晩々秋と、年に5回育てた。
 1970年代の半ばまで、わしは稚蚕を続けてきた。
 仕事の師匠は、親父だった。
 あれこれ教わった訳ではない、
 一緒に仕事をしているうちに、だんだんと覚えた。
 分からないことを聞けば、的確な答えが返ってきた。
 体が弱ってからも、聞きに行くと、うれしがって丁寧に教えてくれた。
 いろいろとアドバイスをしてくれた。
 雨が続いている時の桑のくれ方を聞いたら、
 『梅雨っ桑なんか怖がることはない。
 空気の流れをよくして、防寒紙は外してやれ。
 そうすれば、絶対大丈夫だ』。親父の言うことはいつも正しかった。
 怒鳴られたり、さんざんこき使われたけど、難しい技術を
 いつの間にか身につけた。
 親の持っている『ありがたさ』というやつかな・・・」

  親父は出荷した先の養蚕農家を、常に見て回ってきたという。
飼育上のアドバイスもしてきたと言う。
渋沢さん自身も、同じ方法を踏襲している。
稚蚕農家の仲間と時機を見ては、養蚕をしている農家を回ってきたという。

 「自分の蚕に最後まで責任を持つ姿を見せた。
 だから農家からも信頼された。
 おやじは『欲をかいちゃ駄目だ。力の8割でやれ。
 1000グラムできても800グラムで止めろ』と常に言い続けてきた。
 言われたことを守ったからこそ、養蚕農家にいい蚕を届けられんだ。
 おやじは、本当に蚕の仕事が好きだったんだな」

 懐かしそうに、ガイドの渋沢老人が目をほそめている。