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からっ風と、繭の郷の子守唄 第61話~65話

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 太平洋戦争が始まった1941年(昭和16年)。
有志たちによる『島村蚕種共同施設組合』が結成される。
活発に蚕種が販売されるようになる。
カイコ育成の歴史におおいに貢献したあと、1988年(昭和63年)、
役目を終えて、蚕種組合が解散する。
同時に島村の蚕種業も、この年で終わりを告げた。
島村蚕種組合があった跡地の1haに、勤め人たちのための
住宅団地が造成された。

 「20数年も前に島村の建物は、すでにその役割を終えていたのね。
 日本中の養蚕業を長いあいだにわたり、縁の下から支えてきたんだもの。
 こころの底から『ご苦労さま』と、褒めてあげたいですねぇ・・・・」

 「最近は、そう言ってくれるお客さんがずいぶん増えてきた。
 官営の富岡製糸場を中心に、世界遺産に登録しょうという取り組みが
 活発化をしてきた。その恩恵のおかげじゃろう。
 島村も一度見ておきたいと、多くの人が足を運んできてくれる。
 なんとも、ありがたいことだ。
 ところであんたかのう。京都から来たという、美人の糸とりさんは?」

 千尋と康平の背後から、一人の老人が声をかけてきた。
恋人気分に浸っていた千尋が、悪戯を見つけられたときの子供のように、
あわてて康平の腕を離す。
顔を真っ赤にして、そのままうつむいてしまう。

 「別に照れることもなかろう。
 男女が仲良くすることは美しいことじゃ。
 先ほど田島の奥さんから電話が入ってのう、暇が有るのなら、
 そちらへ行く若いふたりを、案内してくれと頼まれた。
 見た通りの年寄りじゃ。暇ならば、持て余すほどたっぷりあるわい。
 どれと出かけてきたら、目の前に居るのは、いちゃついた新婚さんだけだ。
 あんた達だろうと着いてきたが、いつまで経ってもキリがない。
 ついわしの方から、声をかけてしもうたわい」

 「・・・島村の観光ガイドをなさっているお方ですか?
 もしかして、あなたは?」

 「おう。悪いか。こんな年寄りが、島村の観光ガイドなんぞして。
 手に持っているこの道具は、蚕種を入れるために使っておった道具じゃ。
 あれこれ昔の建物の説明などもしてやるが、俺の話の大半は
 蚕種を作っていた頃の話が専門だ。
 わしの案内が必要か、必要でないのか、どちらかはっきりせい。
 アツアツの新婚さんなど見ていると、わしが入る込む隙間がありゃせんわい」

 (いいえ、わたしたちはまだ・・・・)と言いかける千尋を、
康平が目で止める。