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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ・・第2部

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「もしもし?」暫くして、硬い恭子の声が聞こえてきた。

「小川君?どうしたの?」
「今、まずいのか?」ボクは意味も無く、受話器を抱えて小声で聞いた。

恭子は、一呼吸置いて喋った。
「はい、分かりました。合宿の件ですね?」
「じゃ、今、取り込んでますので、後ほど・・こちらから、かけなおします」
「有難うございました」

プッ、プープー・・と電話は、一方的に切れた。
一瞬、キツネにつままれた気分だったが「ありゃ拙かったかな、タイミング」とボクは独りごちた。

ま、いいや。後でかけなおす・・って言ってたからね。
きっと、そばに親父さんがいて、話し難い雰囲気だったんだろう。

ボクは部屋に戻ってベッドに横になって、一服した。

「恭子、かけてくれよ〜?!」と、また独り言。

ベッドに横になりながら、ボクは昔のコミックを読み散らかして電話を待った。
しかし時計の針が翌日になっても、恭子からの電話は無かった。

「そうとう、ヤバいんかな?」
「仕方ないね、こりゃ、今夜は無いな」
ボクは諦めて風呂に入り、本格的に寝る態勢になってベッドに入った。
クーラーを冷房から除湿に切り替えて、薄い毛布をお腹にかけた。

ベッドの中で、恭子との旅を思い出しながら、一人で笑ったりシンミリしたり。
そしてボクは、深い眠りに落ちたらしい。


「・・起きなさい!」
「電話よ、伸幸〜?!」

モーニングコールは、階段の下から叫ぶお袋さんの声だった。
「は〜い」起き上って時計を見ると、10時を指していた。

「ありゃ、かなり寝ちゃったな」

ボクは、廊下の、子機の受話器を上げた。
「恭子?」
「お早う、アンタ・・・」

まだ少し堅い感じの声だったが、昨日の全く他人行儀な恭子ではなかったから少し安心した。

「どうだった?厳しかったの?」
「うん、最高に怒られたっちゃ、今までに無い位」
「そうか・・・。それで今は?」

「パパさん、診療中やけね、今は大丈夫っちゃ」
「良かった、夕べ電話無かったからさ、心配しちゃったよ」

ゴメンな、アンタの電話があった辺りが説教のクライマックスやったけね・・・と恭子は、小さく笑いながら言った。
「あはは、クライマックスか・・」恭子の小さな笑い声は、ボクを安心させた。

「最悪のタイミングだったんだな、悪かったよ」
何かさ、どうしても声聞きたくなっちゃってね・・とボクは言った。

「うん、うちも嬉しかったっちゃけど、如何せん・・・正座しとったけね、パパさんママさんの前で」
「でも、アンタが美術部員になってくれたお陰で怪しまれずに済んだとよ、有難う!」

「ごめん、とっさにウソついちゃった」
「良か・・うちも嘘ついたっちゃけん、合宿やら初耳ばい、うちも」

あはは、暫く2人で笑った。
良かった、元気な声が聞けて。

「アンタ、本当に帰ると?アパートに」
「うちの事やったら、いいんよ?気にせんで」

「え?」
「実家におって、また恵子さんの事思い出したら、うちに悪いっち思っとるっちゃろ?」

「恭子・・」
図星だった。

「うちな、京都からの帰り道、ずっと考えてたっちゃ」
「お誕生会から、アンタを引っ張りまわしてしもて」
ず〜っとうちのペースやったけ、アンタは、落ち着いて考える時間も無かったっちゃろ・・・と恭子は言った。

「それは、もういいんだよ」
「オレだって、自分の意思で恭子と旅に出たんだからさ」

「向こうにいた時も何度か言ったけど、オレはちっとも後悔なんかしてないし、恭子のコト・・好きだし」
「アンタ・・」
「そりゃ、思い出さないなんて無理だけど」
「実は昨日、親父さんに恭子のコト話した時にも言われたんだ」

「お父さん、なんて?」
「うん、全ては時間だって」

時間・・恭子が電話の向こうで静かになった。

「うん、時間・・・これからもお前は、辛い思いするだろうって」
「でも、お前はお前の心のままに生きていくしか出来ないんだから、時間が解決してくれるのを待つしかないだろうってさ」

「アンタの心のままに・・か」
「そうやね、それしか出来んね、正直に」

「あ、それからね、親父が感謝してる・・って」
「誰に?」
「恭子に・・だよ」

両親から見ても春頃のオレって、どう声かけていいのか分からなかった位だったんだって・・と僕は言った。

「そうやったと」
「うん、だからオレが明るくなったのは恭子のお陰なんだって、言っちゃったからさ」

「オレの止まってた時計を動かしてくれたのは、恭子だからね」

アンタ・・・恭子は、小さな声で言った。

「うち・・会いたい」
「オレも、今すぐにでも飛んで行きたいよ、九州まで」

暫く、ボクらは無言だった。
お互いの気持ちを、正直に言ってしまったから。

「ね、嘘つきは・・好かん?」
「え?どういうコト?」
「うち・・もっと嘘つきになっても良か?」

ボクは何となく、恭子の考えてるコトが分かった。
「あ、合宿か?」
「うん、美術部の・・」

「オレはいいけど、恭子は大丈夫なのか?」
「また、親父さん、夜通し・・名簿で電話かけまくっちゃったら」

「ユミっちゃ!」
「あの子に協力してもろて、口裏合わせてもろたら、平気っちゃなかろか」
大丈夫かな・・とボクは少し不安になったが、恭子に会えると考えただけで、自然に微笑んでしまった。

「したら、うち」
「ちょっと考えてみるけね、待っとって?」

「うん、恭子の悪だくみ?楽しみにしてるよ」
「もう、好かん、悪だくみやら」
「でも、その通りやね!」

ハハハとボクらは笑って、電話を切った。


さて・・・とボクは階段を下りて、洗面を済ませて、丁度診察室から戻ったお袋さんに言った。

「オレさ、午後にでもアパートに一旦戻るからね」
「あら、あんた、夏休みなんでしょ?」
「戻るって、何か用事でもあるの?」

「うん、部屋も閉めっぱなしだし、一学期の復習とか、二学期の準備もあるからね」

我ながら、咄嗟のウソはまだまだだな・・と思ったが仕方ない。

「ご飯とかは、どうするのよ」
「少し、こっちにいればいいのに・・」

お袋さんは多少不満気だったが、何日かしたらまた帰るから・・との一言に「フ〜ン・・」と言いながら、また診察室に消えた。

確かにアパートに帰っても、これと言ってやる事なんかは、無いんだな。
でも恭子の手紙も待ちたいし、勉強したい気持ちも、満更全部がウソではなかった。

昼食の時に親父にも同じコトを言って、ボクはアパートに戻った。

アパートに着いたのは、午後の3時を過ぎていた。
まだまだ、暑い時間だった。

考えてみれば、一週間以上閉め切っていたのだから無理も無かったのだが部屋のドアを開けた時、中からムワ〜っと流れ出た蒸れた空気に思わず息を止めて重い窓を全開にしなければならなかった。

「ひゃ〜、最悪」
ボクは独りごとを言いながら全ての窓を開け放って、空気の入れ替えをした。

本来なら暑いはずの窓から入る風が涼しく感じた位だから、きっと室温は40度を超えていたんだろう。
暫くして何とか蒸れた空気が出ていって、ボクはクーラーのスイッチをいれて目盛りを最強にした。
作品名:ノブ・・第2部 作家名:長浜くろべゐ