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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ・・第2部

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「そうよね、当たり前よね」
「どうしよう、お父さん・・・」
ん?何だ・・?と、親父がヒレかつを頬張りながら言った。

「もしもよ?この子と一緒に京都に行ってた事がバレちゃったら」
「うちにも電話が来るわよね?!」

ばか、そんなもん仮に電話があっても知らん顔しとけ・・と親父は言った。
「いい年した子供の首に、鎖を付けられるか?」
「それはそうだけど」

いいんだよ、こいつらだってバカじゃないんだから・・な?!とボクにビールを注いでくれた。

「なかなか、いい子みたいじゃないか、その子」
「そうかな」
「今度、機会があったら、連れて来い」
父さん会ってみたいな、お前の救世主に・・と笑った。

母さんも見てみたいわ、チェックしなきゃと両親は笑ったが、ボクは内心不思議な気分だった。
親って、子供の彼女に会いたいもんなんだろうか。

じゃ、恵子にも本当は会いたかったのかな?と考えて、ボクは頭を振った。
止めよう・・・切なくなっちゃうから。

「どうした?」
「会わせるのが嫌なのか?」

ううん・・・ボクは首を振って、ご飯を頬張ってごまかした。

その後は、京都で初めて食べたものや、行った所の話しで盛り上がった。

「いいわよね、京都は」
お袋さんも京都は好きで、病院勤務時代の職員旅行で行ったのが忘れられない・・と言った。

「お盆の頃よね、大文字焼きを見たのよね?!お父さん」
「あれはな、本当は、五山の送り火って言うんだ」
「大文字焼きなんて、観光会社が勝手に付けた呼び方だ」

「あら、そうなの?」
「でも、一緒に見たじゃない・・鴨川べりで」

へ〜、2人で見たの?とボクは聞いた。

「そうよ、お父さんと母さん、同じ病院に勤めててね・・」
「その、京都の職員旅行で初めて喋ったのよ、お父さんと」

お、お袋さん、ちょっとほろ酔いか?

「最初はね、取っつき難い変な医者・・って思ってたのよ」
「でも、一緒に旅行に行って、話してみたら・・」

やっぱり変な人だったわ〜!とお袋さんは笑いだした。

「おい母さん、いい加減にしろよ?」と嗜める親父も、苦笑しながらだったから、迫力なんてありゃしなかった。

「あんた、聞きたい?」
「え?」
「お父さんが、どれだけ変だったか」

「うん、聞かせて!」
面白くなってきた。両親の若い頃の思い出話。

「まずね、お給料が入るでしょ?月末に」
「当時は手渡しだったからね、封筒に名前が書いてあって」

でね、お父さんは有名だったのよ、その病院で・・とお袋さんは続けた。

「お給料を貰うとね、ふつうのお医者さんは、一目散に家に帰るのよ」
「でもね、おとうさんは・・」

「お、おい・・それを言うのか?」親父に、若干の狼狽の色が見えた。

「いいじゃない、もう昔の事なんだから」
お袋さん、大分、エンジンがかかってきたみたいだな。

「病棟の看護婦さんを引き連れてね・・大勢よ?!」
「みんなでご飯食べて、お酒飲んで・・ぜ〜んぶご馳走しちゃうのよ」
「そして、翌日は決まって二日酔いで点滴してたのよ・・変でしょ?」

「ばか、あれはだな・・仕事を円滑に進めるための、言ってみれば潤滑油みたいなもんだ」

「あら、その潤滑油が行き過ぎて、月初めにお金借りてたんでしょ?」
「薬剤部の部長が言ってたわよ、小川先生は、どうにかしなきゃダメだぞ、あれは・・って」

あはは、面白い!親父さん、そんなだったんだ。

「全く、余計なお世話だよ」親父は、ブツブツ言いながらビールを飲んだ。

「で?そんな父さんと、どうして?」
「だからね、お母さんは思ってたのよ、こんな人のお嫁さんになる人は、不幸だなって」
ふんふん・・ボクは興味津々で聞いていた。

「そしてね、その年の職員旅行で京都に行ったでしょ?」
「もう、凄い人出でね、京都は・・」

「みんなで歩いて大文字焼きの見物に行ったんだけど、はぐれちゃったの、お母さん」
「迷子になっちゃって困ってたらね、お父さんが目の前に現れて」
一緒に見物しませんか?だって・・とお袋さんも嬉しそうにビールを空けた。

「何言ってるんだ、母さんが泣きそうな顔で・・迷子になっちゃったって言うから」
「父さんは仕方なく、一緒に行動してやったんじゃないか」

「あら、そうだったかしら?その割には、ここに座って眺めましょう・・なんて、手を引いてくれたじゃない」
「それは、そうだった・・かな?」

それで、鴨川の土手で、2人並んで腰かけて見物したのよ、大文字焼きをね・・・とお袋さんが言った。

「ふ〜ん、で、母さんは不幸な人になっちゃったワケか」
「そうよ、母性本能よね、きっと」
お袋さんの言い方がおかしくて、ボクは笑ってしまった。

「見物の途中でね、お父さん、喉渇きませんか?なんて言ってね」
「屋台の冷し飴、買って来てくれたのよ」
美味しかったわね、ガラスのコップに氷が浮かんでて・・と、遠くを懐かしむ目で、お袋さんが言った。

「あんた、京都で飲んだ?冷し飴」
「ううん、飲まなかった。名物なの?」

「そうよ、ニッキが効いててね、冷たくてサッパリと甘い飲み物なのよ」
そうなんだ、飲まなかったな・・って言うか、観光らしい観光は一日だけだったから。

「それでね、だらしないけど、いい人なのかな・・?って思っちゃったのが、間違いの始まりだったのよね」
「おいおい、間違いってなんだよ」

「だって、私が結婚してあげなかったら、アナタの所にお嫁さんに来てくれる人なんてきっと誰もいなかったんじゃない?!」
「バカ言うな、父さん、もてたんだぞ?こう見えても」

「あら、そうかしら・・」
「金欠でピーピーしてる医者のとこなんて、誰が喜んで来るもんですか!」

「もてたのはね、アナタじゃなくて、お給料袋なのよ」
「・・・・」
親父は、仏頂面でご飯を食べた。

「でも、思ったより働き者だったのは確かね、お父さんも」
余裕のお袋さんが、笑顔でフォローした。

この勝負、どうやらお袋さんの完勝に終わりそうだな。

ボクは、初めて2人の馴れ初めを聞いて、無性に恭子に会いたくなった。
今頃、どうしてるんだろう・・怒られてるのかな?

食事が終わって、ボクは自分の部屋に帰った。
電気を点けて、クーラーのスイッチを入れた。

「冷し飴か・・」
「今度、恭子と京都に行ったら、一緒に鴨川の土手に座って飲もう」

「会いたいな・・・」つい声に出してしまった。

電話してみよう・・とボクは廊下に出て、名簿を頼りに恭子の家に電話した。

ジ〜コロコロ、ジ〜コロコロ・・・「はい、吉川医院でございます」
「あ・・・済みません、大学の同級の、小川と申しますが・・」
「恭子さんは、ご在宅でしょうか?」

「恭子・・・ですか?」
「何か、御用でしょうか」

「あ、はい・・クラブの伝達事項なんですが」
「美術部の方?」
「は、はい、そうです」
こんな場合のウソは、きっと許されるだろう・・と勝手に思う事にした。
ドキドキしてしまったが、怪しまれた感じではなかった。

少々お待ち下さい・・ゴツっと、受話器が置かれた。

恭子のお母さんなのか?緊張してしまった。
やはり、厳しい雰囲気が伝わってきたからね。
作品名:ノブ・・第2部 作家名:長浜くろべゐ