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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ・・第2部

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「・・・何か、ロックバンドにしては女々しくないっすか?」
「バカだな、シンは」
「ロックだから、こうじゃなきゃ・・なんて無いじゃん?!」

「いいよ、響がよ・・決まりね!」
「・・いいけどさ、泣き虫バンドね・・ま、いいか」
リエ坊も笑った。

「ティア ドロップス・・・響は可愛いかもしれないわね・・・」
「そいつらがいきなり、ガチガチのロックやりだしたら・・・面白いわ、確かに!」
「な?!いいだろ?」

じゃ、ティア ドロップスに乾杯!とタカダの音頭でボクらは乾杯した。

泣き虫・・・確かにオレ、そうだもんな・・とボクはティア ドロップス、ティア ドロップス・・と口の中で繰り返して「うん、いい名前っすね!」とタカダを見た。

「その泣き虫の1人として・・・よろしくお願いします!」と改めて2人に頭を下げた。
「おう!頑張ろうぜ・・シン!」
「泣きむし同士、結束しようね?!」
「はい!」

楽しい晩だった。
それからのボクらは、色んな話しで盛り上がった。曲の選定から曲順・・果ては当日の衣装まで・・・。

ボクも知らなかった世界が開けた気分で、気分良く明大坂を下った。
店を出た時、タカダが「頼りにしてるぜ、ドラムス!」と肩を叩いてくれた。

「オレがドラムか・・やるしか、ないんだよな」
高揚感と少しの不安を抱えて、ボクは帰路についた。



暗くなって帰って来た部屋は、まだまだ・・・暑かった。

洗濯物も生乾きで、ボクは窓を閉めてクーラーのスイッチを入れた。

「これで少しは乾燥するかな・・・」
ボクは冷蔵庫を開けて、缶ビールを一本、開けた。

冷えたビールは、美味しかった。

「ドラムか、何か、いいな・・」
ボクは、イーグルスのカセットを探してかけた。

流れてきたサウンドに、今日一日を思い出しながら、テーブルに足を載せてビールを飲んだ。

A面の最後が、ホテル カリフォルニアだった。

「タカダか、凄いヤツがいたもんだ」ボクはイーグルスを聞きながら、さっきのタカダの演奏を思い浮かべた。

「あの人、本当は・・・医学部に来るべき人じゃないんじゃないのかな」

余計なお世話とは思ったが、とても素人とは思えないギターに、正直、ボクは参っていた。

そんな人と組むんだから・・・余程頑張らないと・・と天井の蛍光灯を見つめながら、ボクは身震いみたいなものを感じた。

「よし!」
明日は近所の楽器店に行こう、そして、自分のスティックとチューニングキー、バンドスコアを買って来よう。

やると決めたからには中途半端は嫌だったから、二か月でどこまで上達するかは分からないが、自分なりに必死にやってみよう・・と決めた。

カセットのA面が終わって、B面にひっくり返した時、電話のベルが鳴った。

「・・・ん?誰だ?」
「もしもし?」受話器を上げると、懐かしい声が聞こえてきた。

「アンタ・・少し良か?」
「恭子、大丈夫なのか?電話」
「うん、もう我慢出来んで、これ・・・近所の公衆電話なんよ」

「そっか、まだ針のむしろなの?」
「ううん、もう大分いいっちゃけど・・・さすがにおおっぴらには、かけられんけんね」
「そうか・・」

「ちょっと買い物に出て来る・・っち言うて出てきたと!」
「やけ・・いきなり切れたらゴメンっちゃ」
「うん、いいよ、気にすんな。あ、恭子?」
「なん?」

「オレね、バンドやるコトになっちゃった!」
「・・バンドって、音楽のね?!」
「うん、軽音のロックバンドの、ドラムス・・やるコトにしたんだ!」

恭子の声が、途切れた。

「・・もしもし?恭子、聞いてる?」

「きゃはは〜!」
電話の向こうで、恭子はいきなり笑いだした。

そして、笑いを堪えながら言った。
「アンタが・・バンド?ロックのドラム?」

「なんだよ、うけ過ぎじゃん?」
「だって、想像付かんもん・・アンタがドラム叩いてる姿やら」
「バカ、けっこういい線いってる・・って言われたんだぞ?これでも」
恭子につられて笑いそうになったが、ボクは今日の出来事を報告した。

「・・そうやったと・・何かの縁たいね、それも」
「うん、たまたま学校行ってさ、聞こえてきたのが好きな曲だったから覗きに行ったんだけど・・」
「そうじゃなかったら行ってなかったよ、オレ」

「いいちゃないと?ドラム・・」
「ほんとに?そう思う?」
「思うっちゃ、話聞いとったら楽しそうやん?アンタ」
「うん、楽しかったよ・・汗ビッショリだったけどさ」

恭子は、ボクが人と交わって新しい事を始めたのが嬉しい・・と言ってくれた。
「うちな、1人でおったアンタも好きやけど・・・他の人と楽しそうにしてるアンタを見るのも、好きっちゃ」
「やけん、バンドで学園祭に出るんやったら、頑張らなね?!アンタ!」

「でも・・」
「でも?」
「そのリエさんって、どんな人?美人さん?」

「リエ坊?美人・・なのかな、よく分かんないよ。」
「髪が長くて、スラっとしてるよ・・・身長はオレよりちょっと低い位かな?」

「そうなんや・・」
「なんだ?どうした?」
「・・あ、妬いてるのか?恭子は」

「だって、普通・・気になるっちゃ」
「あはは、大丈夫だよ、リエ坊はきっとタカダさんの彼女だから」
「それに、オレ・・そんな余裕全く無いからね!」

「もう、余裕とかやなくて、そういう時は・・」
「オレにはお前がいるからとか何とか言えんと?全く!」

そう言うてくれたら、少しは安心出来るっちゃけ・・と恭子は不服そうに呟いた。
「あ、そうか・・ゴメン」
「オレは、恭子が好きだから大丈夫!」

ボクは実は動揺したのかもしれない、恭子の一言に。
それを悟られたくなくて、わざと元気良く答えたのだろう。

「・・ま、いいっちゃ」
「2学期になったら、練習・・見に行っても良か?」
「うん、大丈夫だよ、きっと・・・」と言い終わる前に、電話はいきなり切れた。

「んん〜?!」ボクは、切れてしまってプープー言ってる受話器を見つめた。

そうか、公衆電話って言ってたから、きっと10円か100円が無くなっちゃったんだ・・・と諦めて、チン・・と受話器を置いた。

もう、かかって来ないのかな・・と電話を睨んだが、ウンともスンとも言わなかった。

「・・・恭子」
やっぱり、恭子の声は懐かしくて嬉しくて・・・ボクはニヤけてしまった。

「さ、恭子には言っちゃったから、頑張らなきゃ!」
声に出して言った後、ボクはシャワーを浴びた。

風呂から出て、濡れた頭を拭きながら干してあるシーツを触ったが、まだ微妙に湿っていたので、今夜は代わりにバスタオルを敷いて寝る事にした。

電気を消して大き目のバスタオルの上に横になって、ボクはお腹だけ、タオルケットをかけた。

クーラーは目盛りを弱にして、タイマーをかけた。

薄暗い部屋の中には、小さくゴォンゴォン・・とクーラーの音が響いたが、邪魔になる程ではなかった。

「でも驚いてたな、恭子・・・」
「・・オレって、そんなにロックとは結びつかないんだ」
ま、仕方ない、少なくとも派手ではないもんな・・・と独り言をいいながらも、ボクは嬉しかった。

でも、恭子の焼き餅は、正直・・意外だった。
作品名:ノブ・・第2部 作家名:長浜くろべゐ