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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ・・第2部

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ある日の事、自宅でシンナーを吸っていた彼は幻覚に驚いたのか、何かから逃げようとしたのか・・パジャマに素足で玄関を飛び出して、家の目の前で車に轢かれて死んだのだそうだ。

「・・そんな事があったんですか」
「うん、ソイツがノリノリでやってたのがさ、ジミヘンだったんだよな」

「ほら、パープル ヘイズって曲、あるだろ?」
「はい、やろうか、って言ってた・・」
「そう、意味知ってるか?」

「いえ、分かんないっす」
「LSDの事なんだって」
リエ坊が、空のジョッキを見つめながら言った。

「皮肉なもんよね、本人がラリってさ、ジミヘン・・バンドであわせられる様になった曲が、パープ ルヘイズだもんね」
「そうなんだ・・・」

「オレな、責任感じちゃってさ、オレがあんな事言わなきゃ・・・」
「・・でも、何度も止めたじゃん、アンタもみんなも」
「止められても止めなかったのは、突き放した言い方かもしれないけど、最後は自分の意志なんじゃないの?」

「まぁな・・・」
タカダもジョッキを空けて、ひと息ついて言った。
「それが、5年前だ・・・」

「やっと5年なのか、まだ5年なのか・・オレも良く分かんないけど」
「・・ジミヘンやりたいな、って最近思うんだ」
「アイツのストラトでさ・・・」

「なに?アンタ・・・貰ったの?酒井君のギター」
「うん、一周忌の時か・・アイツのお袋さんから貰ったんだ」
「あの子が大事にしてたギターです・・って言われてさ」

「・・そうだったんですか」としか、ボクには言えなかった。





       レクイエム





「そっか・・・酒井君のストラトで、アンタがジミヘンね」
「・・・供養には、なるかもね」

リエ坊はそう言って、静かに煙草に火を点けた。

ふ〜、上向き加減に煙を吐き出したリエ坊の目に、ボクは水溜りを見つけた。
ボクは、知らん顔してジョッキを空けた。

「・・オレも、ウーロンハイにします」
「ウーロンハイ!」とボクは店員に大声で言って、トイレに行ってきます・・と席を立った。

「きっと、サカイ君?のこと、好きだったのかもな、リエ坊」
勝手な思い込みかもしれなかったが、ここは同じ席にいない方がいいだろう・・と思った。

トイレで暫く時間をつぶそうと思って、中で一服した。
だが、それもほんの短い時間稼ぎにしかならなかった。

暫くすると、しつこくノックが聞こえてきて、ボクは渋々・・ドアを開けた。
・・・と、そこに立っていたのはタカダだった。

「帰りが遅いから、迎えにきちまったじゃんか!」
「すんません、腹の具合が・・」
「嘘つけ!気・・遣ったんだろ?アイツによ」
はぁ・・・とボクは咄嗟にうまい言い訳が出来ずに、頭をかいた。

「気にすんな、酒井の事はオレらの間じゃ・・タブーだったんだよな、今まで」
「アイツが惚れてたんじゃないか?ってのはオレも知ってたし・・」

ま、アイツも泣けてよ、サッパリしたかもしんね〜しな・・とボクらはテーブルに戻った。

リエ坊はもう泣き止んで、煮込みに七味を入れていた。

「シン、辛いの平気?」
「いや、あんまり自信無いっすけど・・」
「じゃ、ゴメン・・私好みにしちゃった!」

見れば煮込みの表面は、殆ど汁が隠れる位真っ赤だった。

「・・・これって、オレにしたら罰ゲームっすよ!」
「あはは、ゴメンね〜?!ま、食べてみようよ・・意外と平気かもよ?」

案の定と言うか、そのまま・・と言うか、煮込みは味云々よりも既に、口の粘膜に痛かった。

「・・・あいや〜、オレ、リタイアです」
「だらしないね、シンは」
笑いながら煮込みを突いていたリエ坊だったが・・・。

「あは、やっぱ辛いわ・・」
「辛過ぎて、目に沁みるね!」と笑いながら、泣いた。

そんなリエ坊に、タカダは言った。
「お前、そんなに好きだったんか・・アイツの事」
「・・へへ、バレちゃしょうがないね・・うん、好きだった」

「でもね・・・」
「好きなんだ・・って気付いたのが、酒井君がパン中になった後だったからさ、間抜けだよね、私も!」

「もうちょっとね、自分でも何かしてあげられなかったのかなって、随分悩んだんだよ、これでも」

そう言って、リエ坊は無理やり・・笑った。
痛々しい笑顔だった。

「・・ま、そういう事なんだな」
タカダは、しみじみ・・そう言った。

「アイツのレクイエムになればいいか・・なんて思ったんだ、オレ」
「そうだね、やろう・・ジミヘン!」
おう!とタカダの音頭で、ボクらは空のジョッキを合わせた。

「シン、よろしくね?!」
「・・はい、頑張ります」

死んじゃった仲間への鎮魂歌、レクイエムか・・ボクは恵子を思い出して、俯いてしまった。
自分でも驚いたが、また一瞬フラッシュバックしそうでボクは慌てた。

「どした、シン・・」
「なに、シンまで落ち込む事ないのよ、もう昔の事なんだからね?!」
「はい、有難うございます」

「でも、レクイエムって・・何か、いいっすよね」
「オレ・・・」
ヤバい酔ってる。

ボクは必死に話題を変えようと試みたが、うまく言葉を繋ぐ事は出来なかった。
そんなボクの変化を、2人は見逃さなかった。

「お前も何かあるんじゃないか?辛い思い出・・」
「・・いや、いいっすよ」

「嫌なら・・無理やり話す事はね〜けどさ、お前も・・」
「誰かに死なれたのか?友達とか、恋人とか?」
「ちょっと、アンタ・・言い方考えなよ!」
困ってるじゃん、シンが・・・とリエ坊がタカダを嗜めてくれたのが、トリガーになった。

「いいのよ?シン・・話したくなかったら」

「・・ごめんなさい、この店・・以前に彼女と来た事あるんです」
「彼女って?今は?」

「・・・死んじゃいました、この春」
交通事故で・・とボクは、やっと言った。

「丁度、受験の真っただ中で、彼女が死ぬ間際に知らせるなって言ったんで、オレが知ったのは少し経ってからだったんです・・」
「そうだったの・・・ごめんね、思い出させちゃって」
「・・・すまん、オレ」

「気にしないで下さい、鎮魂歌っていいな〜って思ったら、ちょっと思い出しちゃって・・」

ボクは笑おうとしたが、上手くいかなかった。

ポロポロと涙が転がり落ちたが、ボクは瞬きして上を向いて・・・何とか堪える事が出来た。

「へへ、すいません・・みっともないっすよね、男が泣いちゃ」
「いいじゃない、オトコが泣いたってさ」
「そうだよ、泣きたきゃ泣いたらいいんだ、コイツだって今さっき泣いたんだからよ!」

タカダとリエ坊は、ボクに心からの笑顔を向けてくれた。
「すみません・・」

おまちどうさま〜・・と3人分のウーロンハイが来た。

「おし、決まった!」
「・・何よ、急に」
「バンドの名前だよ、なまえ!」
タカダは、ボクとリエ坊を交互に見て、言った。

「ティア ドロップス・・・どうだ?」
「なに?泣き虫バンドってコト?」
「おう、ピッタシじゃん、お前らによ?!」
がはは・・と笑って、タカダはウーロンハイを飲んだ。

そんなタカダの笑顔には、不思議な力があった・・・。
ボクは、自然に微笑む事が出来た。
作品名:ノブ・・第2部 作家名:長浜くろべゐ