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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ・・第2部

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お陰で思いっきり声を張り上げて、ボクは歌いながら叩いた。

と言うのも、マイクを通していなければ声はほとんど聞こえないから、インチキ英語でも恥ずかしくはなかったからね。


トリオのキッスは、気持ち良かった。
これにギターがもう一本入ったら、いや、キーボードもいいな・・・なんて考えてるうちに、二回目は終わった。



「ふ〜・・」
ボクは曲が終わって暫く、スティックを握ったまま放心状態だった。

楽しいな、ドラム・・きっと思い通りに叩けたら、もっと楽しいんだろうな・・と考えていた。

「おい!」
「大丈夫か?オガワ」

あ、はい・・声をかけられて我に返ったボクに、タカダが笑いながら言った。

「お前、イっちゃったみたいな顔してるぞ?!」
「そんなに良かったか?」

イっちゃったって、そんな・・・とボクは照れくさかったが楽しいのは本当だった。
「はい、楽しかったっす、いいですね、バンドって」
「じゃ、これで3人目が決まったわけね!」

「え、3人目って、ボクが・・ですか?」
「決まってんじゃん!今んとこオレとリエ坊とオガワの3人だな」

え〜、新生バンドの一員になっちゃったのか?オレは・・・。

「あと、キーボードも欲しいよね」
「そうだな、ギターでもいいけど、オレより上手かったらヤだしな?!」
タカダが、ハハハ・・とまた笑いながら言った。


「ね、オガワ君・・だっけ、イーグルスって好き?」
「はい、好きです!」

「ホテルカリフォルニア、知ってる?」
「あ、大好きっすよ!」
カセット擦り切れる位、聞きましたから・・とボクは嬉しさを隠せなかった。

ハードラックウーマンといいホテルカリフォルニアといい・・・ボクの好きな曲ばっかりなんだもんな。

じゃ、少しやってみようか・・とリエ坊はベースを弄りだした。

「ちょっと待てよ・・」
タカダが、今度は真面目な顔で足元のボードを踏んづけたり放したりしていた。

「何ですか?そのいっぱい並んだスイッチみたいなの」
「コイツか?これはな・・・」
タカダは難しい顔で足元を見ながら言った。

「・・エフェクターって言ってな、音を調整するもんなんだ」
「でもなかなか難しいんだな、自分好みの音にするのが・・」
とかなんとか言いながら、暫くしてタカダが頷いた。
「・・・いいぞ」

リエ坊がボクを見た。
ボクは頷いてタカダを見た。

ギターソロのイントロが、始まった。

「・・コイツ、本物だ!」
ボクはタカダのギターに鳥肌が立った。


凄い!タカダのギターはさっきまでのキッスとは音が完全に変わってて、イーグルスの音がした。

ボクは目を瞑ってイントロを聞きながら、ドラムのパートを必死に思い出そうとした。
「あんなに聞いたんだから・・・」

リエ坊のベースが被さってきて、音に厚みが出てきた。

「そろそろ・・」

イントロの終わりでボクは、スネアとフロアタムを一緒に2回叩いて「・・・オンザダーク デザートハイウェイ・・・」と歌いながら叩きだした。

特徴的なハイハットを、何とか必死に真似しようと頑張った。

「・・ウェルカム トゥ ジ オテルカリフォルニア・・」
「サッチァ ラブリープレイス サッチァ ラブリーフェイス・・」

叩きながら、ふとリエ坊に目をやると、彼女の口元がコーラスを歌っているのが分かって、ボクは嬉しくなった。

怪しい歌詞でも構うもんか・・・ボクはまた、思いっきり歌って叩いた。
今度は見よう見まねで、シンバルのオカズも何度か入れた。

叩きながらでも耳から入ってくる音は、何だかウエストコーストの乾いた風みたいだった。
「すげ〜楽しい!カッコいい」

ボクもいつしか、髭もじゃのドン・ヘンリーになっていた。


そして、曲は最後の山を迎えた。
「・・ユーキャンチェックアウト エニータイム ユーライク・・」
「バット ユーキャン ネバーリーブ!」

その後のギターソロが圧巻だった。
本来ならジョー・ウォルシュとドン・フェルダー2人で絡みながらのツインリードのパートを、タカダは1本のギターで演奏した。

「ここを1人でやっちゃうのか・・・」イーグルスのギタリスト2人の演奏を聞きなれたボクにも、タカダのギターは引けを取らない様に聞こえた。

ボクは叩きながらタカダから目が離せなくなっていた。
「こいつどんだけ凄いんだ?!」

終わりは?とタカダとリエ坊を交互に見ると、リエ坊の口が「ライヴ・・」と動くのが分かって、ボクは頷いてライヴバージョンの終わり方を思い出した。
「・・確か、そうだ」

タカダのギターは、今・・その最後のクライマックスのリフレインに入っていた。
特徴的なリフレインの音階が上がってきて、タカダがボクを見た。

ボクはタカダの音を聞きながら、エンディングを探った。

「ここだ!」
ボクはハイハットとスネア、バスドラとフロアタムを一遍に4回、力一杯踏んで叩いて・・・終えた。

耳の奥ではキ〜ンと耳鳴りが聞こえて全身汗ビッショリだったが、ボクは満足感で一杯だった。

「凄い、すごいっすよ、カッコよかった・・」
「お前のドラムも、なかなか良かったぞ?!」
ちゃんとドン・ヘンリーしてたじゃんとタカダは笑いながらギターをスタンドに置いて、ボクの方に来た。

「1本くれ!」
「はい・・」差し出した煙草に火を点けて、またタカダはジッポをボクの前に出した。
ボクも1本咥えて、火を点けた。

「ふ〜、悪くは・・なかったな」
「はい、凄かったっす」
敬語は止めろって言ったじゃんよ!とタカダは笑いながらビールケースに座った。

「オガワ君、ほんとに好きなんだね、この曲」
「はい、大好きです」

「歌詞もちゃんと覚えてるじゃない?」
「ホテルをオテル・・って歌ってたでしょ」
「はい、レコードだと、そう聞こえるんで・・・」

「ドン・ヘンリーってね、変なフランス語訛りがあるんだって」
「だからそう聞こえるんだってね」
リエ坊も、笑いながらもう1つのビールケースに腰掛けた。

そうなんだ・・・確かに英語だったらホテルだから・・オテルって発音はフランス訛りなのか。
ボクは何気なく歌っていたのに、この人はそんなとこまで聞いてたんだと思ったら、また嬉しくなった。

「さ〜、今日はいい日になったな」
何気なく練習に来たらドラムスとボーカルが見つかったんだもんな・・・とタカダは嬉しそうに言った。

「うん、ラッキーだね」
「オガワ君、本気でうちらとやってくれる?」
リエ坊が束ねていた髪を解いて、ボクを見て言った。

「はい、こんなんで良かったら、是非・・一緒にやらせて下さい!」
「でも・・」

「でも?なに?」
「完璧に足手まといっすよね、オレ」
「あはは、大丈夫よ、初めてであれだけ叩ければ・・」

「有難うございます、オレ・・練習します」
「練習して、タカダさんとリエさんに迷惑かけないように頑張ります!」

きゃ、リエさんだって・・嬉しい、そんな風に呼んでくれて!とリエ坊はベースをケースに仕舞いながら言った。


「ねえ、どうする?」
ベースを仕舞ったリエさんがタカダに聞いた。
作品名:ノブ・・第2部 作家名:長浜くろべゐ