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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ・・第2部

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どこがどう違うのかなんて分からかったが、2本買える・・それだけでボクは嬉しかった。

売り子さんが気を利かせてくれて、プレゼントの方の袋に可愛いピンクのリボンを付けてくれた。

「はい、毎度ありがとうございました」
「・・はい、どうも」
大人の売り子さんに丁寧に頭を下げられて、ボクもヒョコッとお辞儀をした。

何か、いっぱしの買い物をした気分で、ボクはニヤニヤしながら帰りの都バスに乗った。

バス代の15円でボクは素寒貧になってしまったが、心はホコホコしてた。「喜んでくれるかな・・」

彼女の誕生日まではまだ少々日があったから、ボクはランドセルの奥底にペンダントを仕舞い込んで、当日に渡そうと考えた。

月曜日、ボクは彼女に小声で「誕生日、楽しみにしてろよ?!」と言った。
彼女は「うわ、嬉しい!」と胸の前で両手を組んで喜んでくれた。

しかし、火曜日と水曜日、彼女は欠席した。
ボクは風邪でも引いたのかな?と心配したが、先生に欠席の理由を聞ける訳も無く、ただ1人でジリジリしていた。

そして木曜日、いよいよ今日が彼女の誕生日という朝、ボクはいつもより早く起きてしまい、ソワソワしながら朝飯をかっこんで勇んで学校に行った。

朝の学校独特のガヤガヤした雰囲気の中、ボクは彼女が現れるのを待った。
しかし、朝の学活の時間になっても彼女は来なかった。

起立・礼・・着席!の後、担任の先生が話しだした。

「ニシカワさんは、お家の都合で昨日、引っ越ししました」
「突然の事だったので、皆さんにお別れが言えなくてニシカワさんも残念がってましたが、今日はこれからニシカワさんに寄せ書きを書きましょう」

「各班、1枚づつ色紙を渡しますね」

え〜〜?!聞いてね〜し!
愕然・・とはこういう時に使うんだろうなとボクはぼんやり考えながら、アングリ開いた口を塞ぐのも忘れてポカンとしてしまった。

「ほら、班長、1番に書けよ!」
「え、あ・・おう!」
いきなりボクの前に差し出された色紙に、ボクは迷った挙句・・ハートの半分の絵を描いた。
そしてその絵の下に「今度な・・小川伸幸」と書いた。

班の仲間が「何だ?この絵・・ハートじゃん!」
「ね、班長、何で半分なの?」

「あれ〜?班長・・赤くなってるよ?!」
「ひょっとして、お前ら付き合ってたんか?」

「うるせ〜な、いいじゃんよ・・どうだって」
「うわ〜、付き合ってたんだ!で、ニシカワが転校しちゃったから、ハートが半分になっちゃったんだな?!」

ボクは確かに赤面したが、みんなに囃されて今度は段々、ムカムカして顔が赤くなってきた。

「いけね〜のかよ、付き合っちゃ・・あ?!」
「お前らに迷惑なんかかけてね〜だろ!」

「あ、班長・・怒ったぜ!」
「や〜い、彼女が転校しちゃったもんだから」

「うるせ〜!」ボクは色紙とサインペンを机にバンと叩き付けて、教室を出た。

「や〜い、や〜い照れんなよ、オガワ!」
そんな声がボクを追いかけてきたが、ボクは振り向かずにトイレに駆け込んだ。

トイレの個室の中でボクは情けなくて悲しくて・・・つい、ポロっと涙を零してしまった。
「今日、渡そうと思ってたのによ」
「あのバカ!」

ボクは突然いなくなった寂しさと同時に、引っ越しを知らされなかった事にも憤ってたんだろう。
自分は特別だと思ってたからね。

その時、トントン・・と個室のドアを誰かがノックした。
「オガワ?いるんでしょ?」
「はい・・」
「出てらっしゃい、先生、怒ったからもう大丈夫よ?!」

ボクはバツが悪かったが、個室の鍵を開けて出た。
1日をトイレで過ごす訳にいかないのは、分かってたからね。
給食だって食べたいし。

先生に連れられて教室の戻ると、思いの外、教室は静かだった。

「みんな、オガワがニシカワを好きで何が悪いの?」
「先生はオガワの気持ち、良く分かりますよ」

「いいなって思う人、いるでしょ?みんな」
「その人がいきなり転校しちゃったら、みんなだって寂しく思うはずよ?」
「なのに、そんな気持ちのオガワをからかって面白い?」

そうか、それもそうだな・・等と、教室のあちこちからボソボソと話し声が聞こえてきた。

ボクは先生の弁護で、逆にもっと恥ずかしくなってしまった。
確かにさ、その通りだけど・・。

「先生・・オレ、席に着いてもいいですか?」
「あ、はいはい・・じゃ、みんな色紙書いてね!」

班に戻ると「・・ゴメンな、からかって」と囃した連中が謝ってきた。
「いいよ、別に」


色紙を書きながら、ボクらの班はそれから暫く・・・誰がだれを好きか?なんて話で盛り上がった。

しかし、他の班には事情通がいて「トーサンしてヨニゲしたってお母ちゃん言ってたぞ?!」とか「ショーバイに失敗したらしいぜ」とかの聞きかじりの野次馬根性丸出しの情報が飛び交っていた。

その頃のボクらには、その意味する所は正確には分からなかったが、何か楽しい引っ越しではなさそうな雰囲気は伝わって来た。


それから何日かは、ニシカワ家の引っ越し(夜逃げ?)の話題で盛り上がったが、結局何が正しいのかは藪の中だった。

先生もボクら子供に教えるべきではないと判断したんだろう。
「色紙は、先生が責任を持って、ニシカワさんに送りましたからね」と数日後の学活で報告してくれて、ひと段落した。

数年後の同窓会でもその話題が出て・・・ニシカワ家の夜逃げは本当だったらしいという事が分かった。

でも、彼女の連絡先を知ってる同級生は皆無だった。



「結局、あのペンダント、どうしたんだっけ?」
ボクは水割りをチビチビやりながら、思い出そうとした。

しかしハッキリとは思い出せなかった。
もしかしたら、実家の部屋を漁ったら出て来るかもな・・・とボクは1人で笑った。

「結局、渡せなかったね、ゴメン・・・」
ボクは今でも覚えてるニシカワの笑顔に語りかけた。
「でもお前、あの歳でえらい経験しちゃったんだな・・大変だったろうに」

ボクは、コップを抱えて淡い初恋の思い出に浸った。
「お前が教えてくれたウイスキー、今はこうして飲めるようになったよ・・」
「お前もどこかで飲んでるのかな?」

ボクは、彼女が元気だったらいいなと思って水割りを作った。
ウイスキーの小瓶が、これで空っぽになった。

「今度は奮発して、ジョニ黒、買ってみるか!」

ボクは最後の水割りを大事に飲みながら、小学校時代を思い出していた。

掃除の時間に放送で流れた「マイムマイム」や、給食で奪い合った鯨の竜田揚げや揚げパン。

夏のプールでは、消毒用のカルキ玉を悪ガキ仲間みんなで全部プールサイドに放り投げて、しこたま怒られたコトなど。

「バカだったな、オレ達・・」
「今度探してみるか、ペンダント」
ボクは笑いながら独りごちて、寝台に横になった。





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翌朝ボクは、着の身着のままの汗びっしょりで目が覚めた。

朝というか時刻はもう・・昼近かったのだろう、外はいい天気で部屋の中は蒸し風呂の様になっていた。

「ひゃ〜、参ったな・・あのまま寝ちゃったんだ」
作品名:ノブ・・第2部 作家名:長浜くろべゐ