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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ・・第2部

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「おう、当たり前じゃん・・だれにも言わね〜よ」
「また、持ってこようか?」
「いいけど、学校じゃヤバいじゃんよ」

「そうだね、じゃ今度は家においでよ!家で飲もう?!」
「ばか、お前・・親がいたらムリじゃん!」
「土曜の午後はいないよ?お母さんもお父さんも・・」

よし、じゃ今度の土曜、お前んちな・・と約束した辺りで、先生が戻ってきた。

ボクらはすぐに黙って、大人しく毛布を被った。
毛布の中でボクは、ドキドキ響く自分の心臓の音を初めて聞いた。
酔ってるのと、女の子としてしまった秘密の約束・・・これがボクの心臓を今までになくバクバクさせていたんだろう。

約束の土曜日が来た。
4時間目が終わると、彼女は何度となくボクに目配せをして、声は出さずに「いい?」と言った。
ボクもみんなに聞かれては困るから、「うん」とだけ頷いて、ボクは彼女の数10m後を間隔を開けて追いかけた。

そしてボクらは、両親のいない家で2人っきりでまた、水割りを飲んだ・・・。



「マせてたよな、あいつ」
ボクは懐かしい思い出に浸って2杯目を薄く作った。

あの時、ジョニ黒の美味しさは分からなかったけど、石炭小屋で彼女と2人で飲んだ水割りが人生最初のウイスキーだった。
「ってコトは、最初に飲んだウイスキーは、いい酒だったんだ」
ボクは笑って安いウイスキーの小瓶を眺めた。
「でも、お前もなかなか・・どうして」

気持ち良くなってきたボクは1人でニヤニヤして、杯を重ねた。

「フ〜」ボクは煙草に火を点けて、頬杖をついて目を閉じた。

でも、あの時は参ったな・・・ボクは続きを思い出して1人で笑った。

事の顛末は、こうだった。
約束の土曜日の放課後、おマセな彼女の家に行き、ボクらはまた、ジョニ黒の水割りを飲んだのだった。

「ね、ご飯食べる?」
「うん、腹ペコ、オレ!」

彼女は台所に用意された自分用のお昼を半分、分けてくれた。

「飲みながら食べようよ」
「うん!」

何とボクらは、お昼を食べながら、それこそ水代わりに水割りを飲んだのだ。
ビールならともかくウイスキーである・・おかしくならない小学生がいたら、見てみたいもんだ。

結局、ボクも彼女も、またも真っ赤のフラフラになってしまい、彼女はベッドに寝て、ボクはそれこそ千鳥足で退散したのだ。

帰り道のランドセルの重かった事と、家にたどり着く前に公園のベンチでひっくり返って、近所のおばさんにおんぶされて家に戻った事は、今でも鮮明に覚えている。

結局、風邪の発熱と言う事になり、ボクは布団に寝かされてまたアイスノンで頭を冷された。
バレなかったと言うよりは、まさか酔っ払ってるなんて大人は誰も考えなかったのだろう。

「バレてたら、どうなってたんだろうな、あの時」
ボクは笑いながら水割りをなめた。

さすがに彼女もボクもウイスキーには懲りてしまい、それから2人の秘密の飲み会は開催されなくなった。
代わりに、土曜日は彼女の家に行って、2人っきりで漫画を読んだりお喋りしたり・・の健全なお付き合いが始まったのであった。

楽しかった、やっぱり他の同級生には秘密だったからね。

そしてその年の彼女の誕生日前に、ボクは生まれて初めておねだりされた。
「ねぇ、ノブユキ・・お誕生日のプレゼント、くれる?」
「うん、いいよ。なに?」
漫画に夢中になっていたボクは、本から目を上げて彼女を見た。

「ペンダント、ハートが半分になってるヤツ・・」
彼女は、両手を合わせてハートの形にした。

「それをね、ノブユキと私が半分づつ持ってるの」
「でね、2人合わせてハートの出来あがり!」
「ロマンチックでしょ?!」

「い、いいけどよ、どこに売ってるんだ?そんなの・・」
ボクは、少しドキマギしながら聞いた。
「知らない、でも欲しいな、私・・」

「うん、分かった・・・買ってくるよ、オレ!」

買ってくる・・とは言ったものの、ボクはどこに売ってるのか・・・皆目見当が付かなかった。

近所のサイトウ屋とかシンミ、エチゴ屋等のみんなの溜まり場になってる駄菓子屋には、そんな洒落たモノは置いて無かったし、時々プラモデルを買いに行ってたオオクボ商店にも、そんなのは無かった。

「どうしよう、どこに売ってるんだろう・・」
ボクは悩んだ挙句、冒険の旅に出る事にした。

小学4年生の行動範囲なんてのは狭いもんだったが、週末に時折、家族で出かけてた錦糸町の駅ビルはなじみがあった。
そこは下町の百貨店で、洋服から雑貨、貴金属なんかも売ってた記憶があったのだ。

「あそこなら・・」ボクは次の日曜日、本棚の奥に隠した肝油の缶から、残ってたお年玉をポッケに入れて都バスに乗った。

「確か、1階に売ってたんじゃないか?」
一縷の望みをかけて、ボクは終点の錦糸町で下りた。

駅ビルは日曜で混んでいたが、探し回った甲斐あって1階の隅の売り場にペンダントが沢山ぶら下がっているコーナーを見つけた時は、心底ホっとした。

沢山のペンダントの中から、ボクはやっとハートが半分になったヤツを見つけた。
値段を見たが、これなら何とかなりそうだった。
「これ、下さい・・」
おずおずとボクがペンダントを売り子さんに差し出すと、売り子さんは「これ、1本じゃハートは半分よ?!」
「え?!」
「誰かとペアにするんなら2本買わなきゃ、ね?ボク」
「そうか・・」
そうだった、考えてみれば当たり前の事だった。

ボクは真っ赤になりながら「・・じゃ、2本」と言った。
「あ、ってコトは2倍?!」
今度は真っ青になる番だった。

予算的は決して潤沢とは言えなかったから、ボクは素早く暗算して・・・やっぱり青くなった。
「足りない・・かも」

「ボク、いくら持ってきたの?」
「2000円・・」
「う〜ん、それじゃ、足りないわね」

ちょっと待っててね?と売り子さんは奥に引っ込んで、暫くして似た様な別のペンダントを持ってきた。

「これなら、ボクのお金で2本買えるわよ!」
ボクには、その違いは分からなかった。

「どこが違うの?」
「チェーンの材質なの」
「さっき、ボクが選んだのは鎖が銀製なの!こっちは鍍金だから、少し安いのよ」

正直、ボクは銀でも鍍金でも、どっちでも良かった。
どこがどう違うのかなんて分からかったが、2本買える・・それだけでボクは嬉しかった。

売り子さんが気を利かせてくれて、プレゼントの方の袋に可愛いピンクのリボンを付けてくれた。

「はい、毎度ありがとうございました」
「・・はい、どうも」
大人の売り子さんに丁寧に頭を下げられて、ボクもヒョコッとお辞儀をした。

何か、いっぱしの買い物をした気分で、ボクはニヤニヤしながら帰りの都バスに乗った。
バス代の15円でボクは素寒貧になってしまったが、心はホコホコしてた。「喜んでくれるかな・・」

彼女の誕生日まではまだ少々日があったから、ボクはランドセルの奥底にペンダントを仕舞い込んで、当日に渡そうと考えた。

月曜日、ボクは彼女に小声で「誕生日、楽しみにしてろよ?!」と言った。
彼女は「うわ、嬉しい!」と胸の前で両手を組んで喜んでくれた。

しかし、火曜日と水曜日、彼女は欠席した。
作品名:ノブ・・第2部 作家名:長浜くろべゐ