ノブ・・第2部
少し炭酸が抜けたコーラにウイスキーが程良く効いて、ボクは一気にコップを空けた。
2杯目を作って、セブンスターに火を点けた。
「フ〜」
「先生だったら、何て言うかな・・こんなオレを見たら」
ボクは久しぶりに、先生の事を考えた。
きっと先生だったら、顔にかかった長い黒髪をファサ〜っと右手でかき上げて・・・オガワ、男と女はね、なる様にしかならないの、昔からね・・・なんて言うんだろうな。
先生は、ボクが高校1年の時に結婚して、確か・・・東京の西の方に引っ越して行ったはずだった。
その知らせを人伝に聞いた時は多少の寂しさを覚えたが、正直・・それ程悲しくはなかった。
ボク自身、きっとどこかで先生との関係を割り切っていたんだろう。
「当たり前だよな、中学生と大人だもんな」
ボクの憧れから、ひょんなきっかけで男女の関係になった後でも、あくまでも先生は先生であり続けたし、ボクは生徒のままだった。
「有難うね、先生・・」
ボクは2杯目を飲みながら、女性の扱いと酒を教えてくれた先生に感謝した。
生ビールと2杯のコークハイでいい気分になったボクは、寝台に横になった。
「なる様にしか、ならない・・か。」
長かった昼寝と言うか夕寝のせいで、眠くはなかった。
ボクは目を閉じて、試験が終わってからの日々を思い出した。
恭子との初めての夜、夜行列車の中や夜の京都の、路地裏での立ったままのセックス・・・そのうちにオチンチンが勃起したので、ボクは短パンとトランクスを下ろした。
オチンチンはビンビンになっていて、どんな刺激も逃すまいと身構えている様に見えた。
「お前な・・お前のせいでオレは悩んでるんだぞ?」
情けない倅を叱ったところで、どうしようもない。
ボクは恭子のキスの味、オッパイの感触と花園を思い出して、ゆっくりとオチンチンをしごいた。
恭子の顔と声を思い出してそのまま射精しようとしたら、突然さゆりさんの顔が浮かんできた。
「意地悪して下さい・・」とボクの目を見つめて言った、さゆりさん。
いやらしい言葉を言う様に命令したボクに、恥ずかしそうに答えたさゆりさんの顔と、花園の感触も同時に思い出した。
十六夜の下、真っ裸で獣みたいなセックスをしたボクら。
「さゆり・・」
ボクはオチンチンをしごき続けた。
「だめだ・・・」ボクは最後の大波に堪えきれずに、思いっきり射精した。
結局最後は頭が真っ白になって、ボクは最後の引き金を引いたのが恭子なのかさゆりさんなのか、分からなかった。
「はぁ〜」
オナニーを終えたボクは、ティッシュで後始末をして仰向けになり、目を閉じて鼓動を数えて、呼吸が整うのを待った。
丸めたティッシュをゴミ箱に放り投げて、ボクはシャワーを浴びた。
風呂場から出たボクは、今度はウイスキーの水割りを作った。
そして、台所のパイプ椅子に座ってゆっくりと舐めながら、ある事を思い出していた。
「初めて飲んだのは、小学校の時だったな・・」
懐かしい思い出だった。
水割り
当時、下町の小学校にも、ご多分に漏れず安保の波が押し寄せてきてて、先生の内の何人かはパクられて自習が多かった。
その度に校長先生が出張って来て、役に立つんだか立たないんだか・・取り敢えずは子供達を飽きさせない話しをしてくれた。
そんなある日、ボクらのクラスが校庭掃除の番になり、ボクと数人の同級生が昼休みに校庭の隅の物置小屋周辺を掃除していた。
ふと、扉がほんの少し開いてるのに気付いたボクは、こわごわ中を覗いてみた。
するとそこには、赤文字の入ったヘルメットと当時ゲバ棒と呼んでいた角材、プラカードなどが山積みになっていて、発見したボクらは驚いて担任に報告したのだ。
担任の先生は、「一緒に来なさい」と少し強張った顔でボクらを従え、物置小屋に向かった。
「先生、これ」
説明するよりも早く、担任は「この事は、お父さんやお母さんに言ってはダメよ?!」と怖い顔でボクらを見渡した。
「先生、これって・・」
「そう、アナタの考えてる通りよ」
先生から校長先生にお話しておくからと、担任は校長室に消えた。
「誰にも言うの、止めような?!オレ達の秘密にしよう」発見したボクらの班は、共通の秘密で固く結ばれたみたいになった。
しかし、子供の口に戸は立てられない。
うちの学校にも安保がいると言う噂は瞬く間に広がり「音楽の〇〇先生、最近見ないよね」とか「3年の◇△先生もいないよ?」と校内が一時騒然となった。
「怖いよね、そんな人がいるなんて」
学生運動の嵐が吹き荒れていたとは言え、ボクら小学生4年生の理解はその程度だったのだろう。
ボクも「うん、怖ぇ〜な・・火炎瓶なんかも作ってたのかな?」なんて噂していた。
そんな秘密を共有した班のメンバーの中に、彼女はいた。
彼女は少し背が高くてマセてて・・・ボクらは「お嬢ちゃん」と陰口を言いながらも、少し憧れていた。
ある日の放課後、そのお嬢ちゃんがボクに声をかけてきた。
「ねぇ、ウイスキーって、飲んだ事ある?」
「ウイスキー?何それ」
「大人が飲むお酒だよ、ジョニクロっていうんだって」
「へ〜、変な名前だな・・おいしいの?」
「うん、美味しいって、お父さん、大事に飲んでるよ」
「ノブユキ、飲んでみたくない?」
「バカ、大人の飲み物だろ?怒られるよ」
「少しなら平気よ・・今度持って来るからさ、2人で飲もうよ?!」
うん・・とボクは返事したんだろう、嬉しそうに帰って行く彼女の後姿を、今でも覚えている。
数日後の朝、彼女が小声で話しかけてきた。
「ジョニクロ、持ってきたからね・・」
「え、ほんとかよ、お前・・どこで飲むんだよ?!」
「ノブユキと私、今日、日直じゃん?」
「だから、後で2人で石炭小屋に行く時に飲もうよ!」
「う、うん・・」
正直言ってボクは、飲んだ事無いジョニクロよりも彼女と二人っきりになれる方が嬉しかった。
当時の小学校はまだダルマストーブで、着火剤に火を点けてコークスを燃やしていたのだ。
そして、そのコークスを朝石炭小屋まで取りに行くのは、日直の仕事だった。
「行こうよ、ノブユキ」
「お、おう・・」
ボクは多少ギクシャク歩いてたかもしれないが、彼女は堂々と上着の両側のポケットに手を突っ込んで、ボクの前を歩いた。
バケツを持ったボクは、遅れまい・・必死とついて行った。
石炭小屋には、案の定・・ひと気は無かった。
「これ、持って来たよ・・」
彼女は、ポケットからアルミホイルで蓋された紙コップを出した。
「ね、飲もう?」
「う、うん」
アルミホイルをはがして、ボクらは寒い石炭小屋の中で紙コップの液体を飲んだ・・・。
「ウワ・・何これ!からいじゃん、うまくね〜よ!」
「ほんとだ、お父さんは美味しいって、飲んでるのにね」
とは言いながらも2人の秘め事の雰囲気が嬉しかったのか、ボクらはコップを空けてしまった。
そして、コークスをバケツ一杯にして教室に向かったのだが、何か足元がフラフラして教室に帰りついた時には、2人とも顔が真っ赤だった。
頭はガンガンしてくるし、顔は火照って熱いし。