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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ・・第2部

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ほんとの事言うと・・・・さゆりさんは、ボクの方を向いて言った。

「ノブさんに彼女さんを裏切らせちゃった・・って」
「・・・ノブさん、さゆりのコトは、ノブさんの心にだけ仕舞っておいて下さいね?」
「誰にも、言わないで下さい・・」

そう言いながらさゆりさんは、右手の中指でボクの胸を触るか触らないか・・の、あの優しい愛撫を始めた。

ボクはその感触を目をつぶって、味わった。
そして言った。
「オレ、さゆりのコト、好きだよ・・・」
「それが彼女を裏切る事になるんだなって、オレも分かってる」

「でもさ、あんなセックス・・・今まで経験無かったもん・・」
「自分の中に、あんな自分がいたなんて、ちょっと驚いてる」
「・・ノブさん、さゆりも、同じです」

「うん、オレ達、見つけちゃったんだろうね、お互いに」
「今まで知らなかった、自分の秘密をさ」

「きっと、さゆりとだけなんだろうなって思うよ、オレ」
多分、他の人とじゃ、あんな時間は持てないんだろうな・・と、ボクは独りごちた。

「さゆりも・・・」
さゆりさんは、ボクの胸を撫でながら言った。
「初めて、分かりました・・自分の求めていたセックスって、これだったんだ、って」
「ノブさんに命令されて、凄く恥ずかしいんですけど、嬉しくて喜んで欲しくて・・」

さゆりは・・と言って、さゆりさんは少し起き上ってボクを見た。
「ノブさんのモノです」
そう言って、優しくキスしてくれた。

ボクもそんなさゆりさんが愛しくて、抱きしめた。

「さ、ノブさん・・休んで下さいね」
そう言ってさゆりさんは、ボクの髪を撫でて、胸を触ってくれた。
「・・お休みなさい」
「うん、お休み・・」

ボクは目を閉じて、そのまま眠った。





       蝉時雨
   




翌朝、起きた時には、さゆりさんはいなかった。

「ん〜、良く寝たな・・」
ボクは布団の上に胡坐をかいて伸びをして、部屋を見渡した。

枕元にあったはずの香炉は片付けられていて、六畳間は障子を通した朝の光に満ちていた。

「お早うございます、お目覚めですか?」
襖が開いて、また和服姿のさゆりさんが微笑んで言った。

「うん、お早う・・熟睡したよ」
「良かった、ノブさん、可愛いイビキかいてましたよ?!」

さゆりさんは笑いながら、ボクに顔を洗って来る様に言った。

ボクが洗顔を済ませて戻ると、朝食がテーブルに準備されていた。

「今朝は?なに・・?」
「はい、今朝は鯖のみりん干しです」

「・・みりん干し」
「はい、この辺は海から遠いですから、私の子供時代は魚と言えばみりん干しだったんですよ」
お刺身なんて、滅多に食べられませんでしたから・・とさゆりさんは笑いながらお茶碗にご飯をよそってくれた。

「そうなんだ・・でも、好きだよ、オレ」
「私も好きです、はい、どうぞ・・」

鯖のみりん干しは美味しかった。
お味噌汁も、お漬物も・・卵焼きも美味しかった。

「これ・・」
「はい、私が作りました」
「板場は呆れてましたよ、普段はそんな事やらない私が襷がけで・・ですから」

「嬉しい・・」
「大事なお殿様ですからね。ノブさんは!」

えへへ・・とボクはまた、満腹になるまで食べた。
「ヤバイね」
「何がです?」
「ここにいたら太っちゃうな、絶対・・」

ふふ・・と笑ってさゆりさんは、お茶を淹れてくれた。

ボクはお茶を飲みながら、言った。
「さゆり、行ってくれる?」
「・・はい、行きましょう」

では・・と片付けを終えて部屋を出て行こうとするさゆりさんに、ボクは聞いた。

「宿代、いくら位かな?」
「・・それは、いいんです」
「え、どうして?こんなに良くして貰って・・オレ・・」

「ノブさんは、私の大事な人です・・」
「そんな人からお代は貰えません」

そんな、困るよオレ・・と言いかけたが、さゆりさんは断固として首を横に振った。

「ここではノブさんは私の恋人なんです、恋人が遊びに来て、お金・・貰えますか?」
「それは、そうかもしれないけど・・」
ボクは、黙るしかなかった。



暫くしてボクは、着替えてディパックを抱えて玄関に向かった。

思った通り、玄関にはまた、番頭さんと仲居さんが揃っていた。
おまけに、何か昨日よりも人数が多い様な・・。

「お早うございます、行ってらっしゃいませ!」
「・・はい、お世話になりました」
ボクは誤解とはいえ、さゆりさんに恥をかかせるワケにはいかないな・・と丁寧に挨拶した。

外では昨日と同じ様に、さゆりさんが車で待っていた。

「じゃ、行きましょうか・・」
「うん・・」
ボクが乗り込んでさゆりさんは発車させたが、やはり、振り返ると番頭さんと数人の仲居さんが旅館の玄関前で頭を下げていた。

「みんな真相を知ったら驚くだろうね?!」
「いいんです、ノブさんが大事な人・・って事は本当なんですから!」
さゆりさんは笑いながら、車を走らせた。

「何時ごろまで、部屋にいたの?」
「はい、5時位ですか?」
「じゃ、さゆりは寝不足なんじゃない?」

いいえ、平気ですよ、私は・・とちらっとボクの方を向いて微笑んださゆりさんは、眩しかった。


車は昨日と同じ道を通って、お寺の駐車場に到着した。

「着きました・・」
「・・うん」

ボクらは、無言だった。
ボクは手桶に水を満たして恵子のお墓に向かい、さゆりさんは庫裏までお線香を買いに行った。

恵子のお墓は昨日と変わらず・・蝉時雨の中、黒光りして建っていた。

昨日活けたお花が、まだなんとか持ちこたえていたのが嬉しくて、ボクは水を替えてあげた。

そして墓石に水をかけながら、心で恵子に語りかけた。

「・・・恵子も行ったんだってね、あの滝・・」
「いいとこだよな・・」

「学校の先生になりたかった・・っていうのも聞いたよ、さゆりさんからさ」
「恵子だったら、人気の先生になってただろうね・・」

「オレさ、さゆりさん・・好きになっちゃった・・怒るかな、恵子は・・・」
ボクはお墓の前にしゃがみこんで、墓石に向かって話し続けた。

「恭子って彼女もいるのに、オレって・・・どうなっちゃってるんだろうな・・」


後ろで足音が聞こえて、さゆりさんが線香を持って来た。

「ノブさん、火、お願い出来ます?」
「うん・・」
「あれ、何か笑ってました?」

「そう?」ボクは曖昧に微笑んだ。

笑ってるように見えたとしたら、それはきっと苦笑いだったんだろう。

「恵子に、話してたんだよ、オレって・・」
「ノブさんが・・?」
「うん・・ま、いいや」

「お線香、有難う」
「・・はい」
さゆりさんは少し首を傾げてボクを見たが、それ以上の追求は無かった。

お線香に火を点けて、ボクらは静かに手を合わせて墓石に向かった。

目を閉じても痛いほどの日差しと、シャワーの様に降り注ぐ蝉時雨。


目を開けて立ち上がったら、少し・・クラっとした。

「さ、行こうか・・」
「はい・・ノブさん?」
「なに?」

「ううん、いいです・・」
さゆりさんの言おうとしたことが分かる様な気がしたから、あえてボクは聞かなかった。


さゆりさんが車を走らせて、ボクは窓から外を見ていた。
作品名:ノブ・・第2部 作家名:長浜くろべゐ