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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ・・第2部

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そこは何の変哲も無い、ただの商店街の十字路だった。


反対側の歩道の脇に花瓶があって、花が活けてあって・・それさえ目にしなければ、まさか半年近く前にここで1人の女性が事故に遭い、結果亡くなったなんて到底想像することは出来ない、本当に普通の、交差点。

何回、目の前の信号が変わったんだろう・・・。
それすら分からない位、ボクらは停まっていた。

何台もの車が、ボクらの横を通り過ぎて行った。

「お花は、恵ちゃんのお母さんとか同級生が活けてるんです、今でも・・・」
「・・そうなんだ」
ボクは、あの日・・泣きながら見送ってくれたお母さんの姿を思い出した。

「オレ・・」
ドアを開けてボクは外に出たが、何故か・・交差点には近づけなかった。
車の横で立ちすくむしか、出来なかった。

さゆりさんがボクの横に来て、手を握ってくれた。
暫くボクらは交差点を見つめて、無言だった。


「・・行きましょうか」
「うん・・」ボクは何も言えなかった。

あの雪の日、ここで恵子が・・・。

もしも外に出なかったら、もしもオルゴールなんて頼まなかったら、もしも・・・。

「ノブさん?」
「え・・?」呼ばれてボクは、さゆりさんの方を向いた。
さゆりさんの輪郭がぼやけてて、いつの間にかボクは、気付かぬうちに泣いていた。

「着きました」
「うん・・」ボクは慌てて、涙を拭った。

さゆりさんは旅館の玄関ではなく、その横の自宅の玄関に、ボクを連れていった。
「母屋は、ここが玄関なんです」
「・・うん」
鍵を開けて、上の空のボクの手を引いて、さゆりさんは家に上がった。

長い廊下を歩いて、ボクらは縁側に行った。

「座ってて下さいね、今、冷たいものをお持ちしますから」
さゆりさんが勧めてくれた座布団に座り、ボクは呆けた様に、緑の庭を眺めた。

「また耳鳴りだ・・・」
ボクは庭を見ながら、蝉時雨よりも耳の奥で鳴るキ〜ンという音に気を取られていた。

風が吹いて、木々がざわめいたのは見ていて分かったが、どこか遠い世界の出来事の様な・・ガラスの向こう側の様な感じだった。

「ノブさん?」
「うん・・」
「真っ青です、顔色が」

さゆりさんは麦茶の載ったお盆を横に置いて、ボクの額の汗を冷たいお絞りで拭ってくれた。

「少し、横になって下さい」
「有難う・・」

さゆりさんは、膝枕してくれた。
縁側を向いて、さゆりさんの太腿に頭を載せて、ボクは目を閉じた。

「・・・ゴメンな、何かオレ」
「いいですよ、喋らなくていいですから、少し休んで下さいね」
「うん・・・」

どうしたんだろう、オレ・・・ボクは耳鳴りを聞きながら考えた。
答えは、すぐに見つかった。

「オレと出会ってなかったら、恵子は死なずに済んだ・・」
「・・ノブさん」
「結局そういうコトなんだよ、それが分かったんだ・・・」

あんなどこにでもある普通の交差点で、何で恵子は死ななきゃならなかったのか・・オレと知り合っちゃったからさとボクが独り言の様に言うと、さゆりさんは言った。

「それは、違いますよ、ノブさん」
「ノブさん、私の時に言ってくれたじゃないですか・・」

「子供堕ろしたのは、仕方ない事だったんだって・・」
「うん・・」

「恵ちゃんの事だって・・・あれは、本当に不幸な事故だったんですから」
「ノブさんのせいでも誰のせいでもないと思います」

「私の事は自分がバカだった・・無知だったって、後悔してます」
「ほんとに・・・生きてていいのかな?って思った位」

「でもノブさん、言ってくれたでしょ?」
「仕方なかったんだよって」
私、大げさじゃなくて・・救われた気分でしたとさゆりさんは言った。
ボクの顔に涙が一粒落ちてきた。

「だから、恵ちゃんの事故も、ノブさんが悪いなんて・・」
「出会わなかったら・・なんて思わないで下さいね?!」
「恵ちゃん、私に嬉しそうに言ってたんですから、ノブさんの事を・・・」

年下だけど素敵な彼が・・・と言って、さゆりさんは顔を覆って泣いた。



ボクは、さゆりさんの嗚咽を聞きながら考えた。

確かにそうやって原因というか責任を追いかけていくと・・・最終的には自分の存在そのものにまで、いってしまう。

知りあわなかったら良かった、それはある意味事実だろう。
でも知り合ったから、お互い短い間だったけど幸せだったのも事実。

事故の運転手だって、決して事故を起こそうと思って起こした訳じゃない。

暫くそうしていて、耳鳴りが収まってきたボクは仰向けになった。

目を開けると、さゆりさんはまだ顔を覆ったままだった。

「さゆり?」
「・・はい」
「足、伸ばしてくれる?」

「え?」
「首、ちょっと苦しいんだ」
あ、はい・・・とさゆりさんはボクの頭を持ち上げて、足を投げ出した。

「・・どうぞ」
「有難う、いい感じだ」
さゆりさんの太腿は柔らかくて、丁度いい高さだった。

「重くない?」
「はい、大丈夫です・・」

「ごめんな、あんなコト言って・・」
「確かに誰のせい・・なんて責任追求したって、意味無いんだね」

「オレさ・・」
「・・はい」
「段々、分かってきたのかも・・・」

「何がです?」
「今回、ここに来たのはさ、きっと恵子がもういないってコトを自分自身に思い知らせるために・・」
「そのために来たのかもしれないなって思う。」

「ノブさん・・」
「オレね、さゆりはバカみたいって笑うかもしれないんだけど・・」
「酔って、ウエイトレスと寸前までいった後でさ」

「2人でよく行った喫茶店に行ったんだよ」
「・・はい」
「でね、待ち合わせの時に何度も頼んだメニューを頼んでさ・・」
「これを食べながら待ってたら、恵子が来そう・・って、半分本気に思っちゃって」

頭、狂ってたな、あの時は・・と自嘲した。
「勿論、すぐに来る訳無いって分かったけどね」
「ノブさん、そんな・・」
笑える訳ないじゃないですかと、さゆりさんはボクの頭に優しく手を置いた。

「それが、一昨日の事・・・だから昨日、いきなり出て来ちゃったんだよ、恵子と話したくてさ」
「・・はい」

「でも、恵子と話すコトは、やっぱり無理だった・・」ボクは言った。

「ノブさん・・」
「墓参りして、事故の現場見て・・ちょっと突きつけられたみたいな感じがしちゃってね」
「恵子の死ってモノをさ」

やっと、少しは実感出来たのかもな・・とボクは目を閉じた。

「そうかもしれませんね・・」
「ノブさん、少し休んで下さい・・・念願の縁側で」
「有難う・・」

ボクはさゆりの膝枕と、団扇で送ってくれる優しい風に、いつしか眠ってしまった。

夢は、見なかった。



「あれ・・?」
「お目覚めですか?」
「うん、オレどれ位、寝てたの?」

「そうですね・・20分位?」
「ずっと、このままで?」
「はい」
さゆりは微笑みながら、団扇で扇いでくれた。

庭の蝉時雨が心地よくて、風が心地よくて・・ボクはもうひと眠りしたい衝動に駆られた。
「さゆり?」
「枕持って来てさ、隣で寝ないか?さゆりも」

「ふふ、嬉しい・・でも」
「こう見えても若女将ですからね?私」
作品名:ノブ・・第2部 作家名:長浜くろべゐ