ノブ・・第2部
「オレ・・」ボクはうまく言えなくて、ただ黙ってキスをした。
キスの後、さゆりさんは、ボクを見つめて言った。
「熱かったです、ノブさんの・・」
「うん・・」
「こっち・・」
そう言ってさゆりさんはボクの手を引いて、ボクらは滝壺に下りた。
「子供の頃、泳いだんです、ここで!」
素っ裸のまま・・・靴だけ履いたさゆりさんが、足首まで滝壺に入りかけて振り返って言った。
「今でも・・泳げるかな?」
「大丈夫か?さゆり・・」
「冷たかったぞ、かなり・・」
さゆりさんはザブザブと水に入って行ったが、腰まで入った所で「・・冷たいです〜〜!」と大きな声で笑いながらボクを見た。
「ほら見ろ〜、無理だって!」
「でも、気持ちいいですよ、ノブさん?!」
仕方ないな・・ボクも汗をかいた体を流したい気分だったから、靴のままで後に続いた。
でも・・・無理だった!とてもじゃないが浸かるなんて、とんでも無かった。
「さゆりオレ、無理・・」
「だらしないですね、ノブさんは!」
さゆりさんは結局、すいすいと平泳ぎで一回りしてきた。
ボクはやっとお腹まで浸かって、汗と精子を流して・・限界だった。
「・・女の方が、強いんですってね、寒さや冷たさには」
「それって、根性が違うってコトか?」
「いいえ、皮下脂肪の問題ですって!」
水から上がって、小さなハンドタオルで体を拭きながら、さゆりさんは楽しそうに笑って言った。
「でも、皮下脂肪だけじゃなくて、根性も太いと思います・・女の方が・・」
「同感だな、オレ・・とてもじゃないけど、ここじゃ泳げないもん!」
「ノブさんったら・・・」
さゆりさんは、ハンドタオルでボクの体を拭ってくれた。
拭いては、滝の水で濯いでまた、冷たくして拭いて・・・。
「有難う、汗、引いたよ・・」
「いい気持ちだ」
「そう言って貰えたら、さゆりは嬉しいです」
ボクらは、また岩に腰掛けて滝を眺めた。
さゆりさんはブラウスをはおり、スカートを履いた。
「下着は、着けなくてもいいですか?」
「うん、いいけど・・何で?」
「・・濡れちゃったから」赤面して俯いたさゆりさんがおかしくて、ボクは笑いながら言った。
「さっきまでの淫乱M女はどこいったんだ?」
「・・意地悪ですね、ほんとに」
「ノブさんが喜ぶと思ったのに・・いけませんか?」
「そうか・・嬉しいよ、さゆり」
ボクはさゆりさんを抱き寄せて、ボクの肩に頭を載せた。
さゆりさんは、そのまま話し出した。
「ここは、私の秘密の場所だったんです」
「私・・・ここで犯されたんです、高校一年生の時に」
「え、ほんとに?!」
「はい、ノブさんに嘘は言いません」
「その時、好きだった人と、二人っきりになりたくて・・ここに連れて来たんです。」
「正直に言えば・・犯される様に仕向けたんです、私が・・・」
驚いた、自分からそう仕向ける高校一年生・・か。
「狭いんですよ、この街は・・」
「2人っきりになると、すぐに噂になっちゃって」
「だから、誰にも邪魔されずに2人になれる所って、ここしかなかったんです」
「じゃ、犯されたんじゃなくて・・合意のデートなんじゃないの?!」
「・・ふふ、違うんです、ノブさん・・」
「・・彼、意気地なしだったんですよ・・なかなか手を出してくれなくて」
「・・うん、それで?」
「だから、ここに来て私、制服のスカートを捲りあげたんです、自分で・・」
「うん・・」
ここ、興味あるんでしょ?って・・・とさゆりさんは悪戯っぽく笑った。
「彼、どうした?」
「ビックリしてました!でも・・」
「そのうちに、もっと見せて・・?って言いだして」
「私、やだって逃げたんです、振り返りながら走って・・」さゆりさんは立ち上がって、スカートを翻して微笑んだ。
「彼、必死に追いかけて来ました!」
「そして、私・・わざと躓いた振りをして、掴まったんです、彼に・・」
「そして・・・そのまま押し倒されて・・」
「制服が泥だらけになっちゃって、親に言い訳するのが大変でした」
さゆりはそう言って、明るい太陽の下で笑った。
「凄い一年生もいたもんだな」ボクも笑った。
「両親には、何て言ったんだ?泥だらけの訳は」
「自転車で転んじゃった・・って言いました」
でも、その後は、あまりいい思い出じゃないんです・・とさゆりさんは岩に座って言った。
「どうして?その後、どうしたの・・その彼と」
「少しだけですね、付き合ったのは・・」
「何で?」
「・・・しつこくて、もう、会えば必ず・・みたいな感じになっちゃたんですよ」
「へ〜、でも、そんなもんじゃないの?高校生なんてさ」
「だって、どこにいても2人っきりになると必ず・・・」
「他にする事無いの?って位」
「それまでは、勉強とか学校の友達の話とか・・結構、色々と話てたんですよ・・それが」
「一度しちゃったら・・」
段々、鬱陶しくなっちゃったんですね、私が・・・とさゆりさんは笑った。
「いい加減にして!みたいに思うようになっちゃって・・」
「きっと、飽きちゃったんでしょうね、彼にも、彼とのセックスにも・・」
思い出しても、とってもシンプルなセックスでしたから・・と、さゆりさんはボクを見て笑った。
大して気持ち良くならなかったし・・と。
「そして、私・・セックスに興味無くしちゃったんです」
「・・そうなんだ」
「はい。だから・・」
大学に行っても、男には興味を持てなくて、スポーツに打ち込んだのだ・・とさゆりさんは言った。
「こう見えても私、トラックの全日本強化選手だったんですよ?!補欠でしたけど・・・」
「へ〜、凄いじゃん!種目は?」
「100のハードルでした・・」
ボクは素直に凄いな・・・と感嘆した。
「えへへ、嬉しいです・・ノブさんに褒められると」
「運動神経には自信あったって、本当なんだね!」
「でも、ダメでした・・・」
「・・何か、あったの?」
「怪我しちゃったんですよ、レース中にハードルを引っ掛かけて転倒して・・」
「右膝の靭帯、断裂しちゃったんです」
「・・そうなんだ、残念だったろうね」
「はい、もう、この世の終わりかと思いましたね、あの時は」
さゆりさんは、遠くを見ながら言った。
「で、何もすることが無くなって寂しくて、彼を作ったんです」
「例・・の?」
はい・・とさゆりさんは肩を落とした。
「でも、いいんです、もう・・・」
「帰る踏ん切りがついたのは事実ですし・・」
「それに・・・帰ってきたお陰で、こうしてノブさんに出会えて、私・・・本当の自分をやっと見つけられた気がしてるんですから。」
恵ちゃんには悪いな・・って思うんですけど、感謝しなきゃ・・とさゆりさんは小声で言った。
「だから、恵ちゃんの分も、ノブさんに・・・」
「・・・恵子が生きてたら、違うかたちで出会ってたかもな・・」
「そうですね、幼馴染って紹介されたでしょうね、恵ちゃんから」
「・・それでも私・・きっとノブさんの事、好きになってたと思います。」
あはは、それは無いんじゃないか?・・とボクは笑ったが、さゆりさんは真面目な顔で、答えた。
「分かりませんよ、人の気持ちは・・」