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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ・・第2部

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「なに?それ」
「かじか。食べた事、ある?」
「かじか?・・・無い」

美味しいわよ、綺麗な川にしか住まないお魚なの・・とさゆりさんはテーブルにお皿とお箸を二膳、置いた。

「確かに東京じゃ、食べないわよね」
「うん、初めて」

ボクは、この小さな飴色の佃煮を、1つ・・口に放りこんだ。

「美味しいね」
「でしょ?山椒の香りがするでしょ!」
「うん、する」
小さい頃は、これでよくご飯食べたな・・と懐かしそうに、さゆりさんも食べた。

「いいツマミになるのよね、これがまた」
さゆりさんはそう言いながら、部屋のクーラーを消して窓を開けた。

「いい風入るわよ、この時間なら」

確かに、開けた窓からは涼しい風が入ってきた。
緑の匂いと、小さく蝉の声も一緒に・・・。

「夜風もいいでしょ」
「うん、クーラーの風より何倍もいいよ、こっちの方が」

ボクは寛いだ格好で、窓の方を向いて団扇を使った。

「ノブってさ・・・」
「なに?」
ボクはさゆりさんの方を振り向いて、座りなおした。

「ううん、何でもない」
「私の話し、いい?聞いてくれる?」

「うん、いいよ」ボクはさゆりさんの前に、湯呑みを差し出して言った。
「手酌は、ダメなんでしょ?」
「そうよ」
さゆりさんは微笑みながら注いでくれた。

「捨てられたって言ったでしょ?私」
「うん」

「それは見事にね、捨てられちゃったのよ、好きだった男にさ」
「どうして?」
「驚かない?」
「うん、多分・・」

さゆりさんは湯呑みを両手で弄びながら、下を向いて言った。

「妊娠しちゃってね」
「私もまさか、学生だったから産んでどうこう・・なんて思ってはいなかったの」

「うん」
「でもね、妊娠したって事を彼に言ったらさ」

「もう、態度が豹変しちゃってね!」
「お前、まさか産むなんて言わないよな・・なんて凄い怖い顔で言うんだもん」
オレは知らないからなって・・とさゆりさんは悲しそうに呟いた。

「挙句の果てに、何て言ったと思う?」
「何て?」
「それ、本当にオレの子か?だって」

「そいつ、ひどいね」

うん、実はそういう人だったんだよね、バカだったわ、私も・・と自嘲しながら、さゆりさんは続けた。

「それからは電話にも出てくれないし、校内ですれ違っても知らん顔されてね、逆に彼の友達の方が優しかった位でさ・・・酷いでしょ?」

「でね、す〜っと醒めちゃったんだ」
「結局、堕ろしたの、私」

暫くは立ち直れなかったな・・と。

ボクは、何て言っていいのか分からずに、思わず手酌してしまった。

「もう、ダメって言ったじゃん!」
「ごめん、でもさ・・」

「そんな時よ、お父さんが倒れたって連絡が来たのは」
「だから私、逃げるみたいで半分は嫌だったの、大学辞めるの」
「でもね、もういいかなって、東京暮らしはさ」

いい思い出も沢山あるけど、最後は・・散々だったわと寂しそうに笑った。

「そうだったんだ」
「驚いた?」

「うん、驚いたけど、それより、さゆりさん、辛かったんだろうなって」
「軽蔑しない?」

「何で?」
「だって、中絶したことある女なんて知らないでしょ?ノブは」
「そりゃ、オレの回りにはいないけどさ・・でもそれって」
「間違っちゃったって事なんでしょ?」

「おまけに彼にそんな風に言われてさ」
その事で一番傷付いたのはさゆりさんなんだから、軽蔑なんてする訳ないじゃん・・と言うのがやっとだった。

「優しいんだね、ノブは」

語り終えたさゆりさんは、1つ肩の荷を下ろしたかの様に、微笑みながら囁いた。
そしてボクを見て言った。

「だから、もてちゃうんだね」
「そんなコトないって」

「ううん、私にも分かるもん、君の魅力」
「きっと恵ちゃんも新しい彼女もね、あ、その寸止めのウエイトレスもさ」
「そうやって、ちゃんと人の話しを聞いてくれる・・おまけに真剣になってくれるノブに参っちゃったんだと思うな」

いいや・・ボクは反論した。
「恭子もウエイトレス・・真由美さんっていうんだけどね」
「オレが1人だったから、どこか他の学生と違って見えたからって言ってたよ?!」
「オレ、そんなに優しくないし自分勝手だし」

「じゃ、何で私の話しも聞いてくれたの?」
「だって、さゆりさん、今度は私の話し聞いて?って言ったじゃん、だから」

「ふふ、そこなんだよ、ノブのいいところはね」
「え?分かんないよ、オレ」

ま、いいわ・・分かってない方がいい事もあるもんねと言って、さゆりさんはよろけながら立ち上がった。

「へへ、酔っちゃったかな?」

「大丈夫?何するの?」
「お仕事よ、私の」

さゆりさんは、隣の六畳間に続く襖を開けた。

「さ、お布団敷くからね、若女将自ら」
「いいよ、自分でやるから!」
ボクは、押し入れから布団を引っ張りだそうとしているさゆりさんの肩に触れた。

さゆりさんは振り返って、ボクの目を見て言った。

「私の仕事、邪魔する気?」
「ううん、だって・・酔ってふらふらしてるじゃん」
「自分でやるよ」

次の瞬間、さゆりさんの両腕がボクの首に巻き付いた。
そして、耳元で囁いた。
「じゃ、やらせてあげる」
「その代り、人の仕事取るんだから・・」
囁かれて・・・ボクは心臓がドキドキした。

腕をほどいたさゆりさんは、上目遣いに言った。

「上手く敷けたら、ご褒美あげる」
「失敗したら・・・罰ゲームよ」

え?何で・・?とボクは狐に抓まれたみたいな気がしたが、腕組みをして「さ、早く・・」とゆらゆらしながら睨む女将には逆らえなかった。

「じゃ、敷くね」
「どうぞ」





       罰ゲーム






ボクは、どうせ自分が寝るだけだから・・・と、敷布団を敷いてシーツをかけた。そして、枕にカバーを巻いて・・薄い夏掛けをのせ、簡単に終わらせた。

「出来たけど?」
さゆりさんは首を傾げて言った。
「終わりなの?それで」

「う、うん・・ダメ?」
さゆりさんは薄笑いを浮かべて「30点!」と言って、夏掛けをはぐってしまった。

「ここはね、私の旅館なんだから、任せなさいな?!」
「ノブは、顔を洗って歯でも磨いていらっしゃい」

フフン・・といった感じで、さゆりさんはボクの背を押して六畳間から追い出した。

「歯磨けって、ドリフかよ」
ボクはブツブツ言いながら、洗面所で顔を洗って歯を磨いた。

「ふ〜、実は結構酔ってるのかな」
鏡に映ったボクは、赤かった。

ボクが六畳間に戻ると、布団がきちんと敷いてあった。
傍にはさゆりさんが腕組みをして「どう?プロはこうするのよ」と得意気に微笑んだ。

「有難う、参りました。」
「分かれば、いいのよ・・」と言って、さゆりさんは部屋を出て言った。

「さて」
ボクは早速、電気を消して柔らかい布団にもぐりこんだ。
部屋には、障子を通してほのかに月明かりが差し込んだ。

さゆりさんがクーラーを入れてくれたんだろう、部屋の中はいい感じの涼しさだった。
「安眠できそうだな、今夜は」


「いい?」
突然襖が開いて、さゆりさんが入ってきた。

「ど、どうしたの?」
「忘れた?罰ゲーム」
「え、本当だったの?あれ」
作品名:ノブ・・第2部 作家名:長浜くろべゐ