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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ・・第2部

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そして、さっきからモヤモヤしてた事を、言おうかどうしようか迷っていた。

さゆりさんは、黙って湯呑みに酒を注いでくれた。

暫く迷った挙句、ボクは言った。
「オレ・・・さゆりさんと一緒に泣く資格、本当はもう無いのかもしれない」

「なに?何の事?資格って・・」

一呼吸置いて、ボクは打ち明けた。
「オレね、彼女が出来たの」
「実は今月の中頃から、付き合ってる女の子がいるんだよ」
「だから・・」

恵子を偲んで、恵子の幼馴染と一緒に泣くって何か申し訳ない気がして・・・と言った。

さゆりさんは、ボクをじっと見つめていた。
そして湯呑みを飲み干して、言った。

「新しい彼女か・・・」
「うん」

「じゃ、何で今頃墓参り?」
「納骨に行くって約束してたんだよ、恵子のお母さんとね」
でも、辛くて行けなかったから・・・とボクは言った。

「約束、破っちゃったからさ、オレ」
「それで来たの?」
「本当は、違うんじゃない?」
さゆりさんの目は、ボクの瞳を通して何かを感じ取ろうとしていた。

ボクは、話した。

春、辛くて思い出したくなくて勉強に夢中になった事、試験が終わって誘われて恵子の事を打ち明けて付き合いだした事、この間まで2人で京都に行っていた事・・等など。

そして、帰って1人で御茶ノ水のアパートにいたら、辛くて居ても立ってもいられなくなってしまったコトも真由美の事も話した。
恵子の幼馴染に、隠し事はしたくなかったから。

さゆりさんは黙って聞いていてくれた。

「でね、分かんなくなっちゃんたんだ」
「オレって、何者なんだろうって」

さゆりさんは、ジっとボクを見つめていた。

「正直なんだね、ノブ君って」
「私にどうこう言う資格なんてないよ」

「恋人にいきなり死なれちゃったら・・なんて想像できないもん」
さゆりさんは伏せ目がちに、ボクを見て言った。

「じゃ、ノブ君は、どう思うの?」
「え?」

「仮にだよ?」
「君が死んじゃってさ、残された恋人が・・その」
「新しい恋人と付き合うって想像したら」

「分からない・・」
「だよね、私も想像出来ないな」

恵ちゃんだったら、どう思うんだろうね・・とさゆりさんはまた、酒を注いでくれた。

「でも、私が恵ちゃんだったら」
「ノブ君がズ〜っと泣いたまんまって、我慢出来ないかもよ?!」
「ノブ君も、そうじゃない?」

「そう、なのかな」
実のところ、ボクはどうなんだろう・・・。

「でもさ、それって、新しい恋愛をした自分が亡くなった恵子に後ろめたくて」
「自分に都合のいいように、そう思う・・思いたいってコトなんじゃないかな」

ボクはやっと、自分の本音を言えた。

「彼女との旅行から帰って来てね、一人になって」
「オレ、一瞬で時計の針が狂っちゃったんだよ」

別の女の子ともう少しで・・ヤっちゃうとこだったしとボクは自嘲した。

「その後ね、自己嫌悪と恵子に会いたいのと・・新しい恋人に甘えたいのとでさ」
「酔って歩き回って、吐いて」

だから、恵子のお墓の前で考えたかったんだよ、ゆっくり・・とボクは告白した。

さゆりさんは、黙って聞いててくれた。

「なんで・・」
「別の女の子が出てきたの?聞いてもいいのかな」

「うん、新しい彼女と付き合う前にね、一度・・ヒョンなきっかけで飲んでさ」
「好きって言われたんだよ、その子に」

ふ〜ん、どこで知り合った子なの?とさゆりさんは聞いた。
「大学の近くの、よく行ってた喫茶店」
「そこのウエイトレスさん」

「ノブ君って、もてるんだね?!」
さゆりさんが笑いながら言った。

「違うと思う」
「暗かったから、放っておけない雰囲気だったみたい」

「そうなのかな・・」
「きっと、恵ちゃんのコトで頭が一杯だったんだろうね、ノブ君」
「だから、暗く見えたんじゃない?」

ボクは、下を向いて言った。
「春からオレ、一人だったからさ」
「正直、あんまり人と関わり合いたくなかったから」

「なんで、しなかったの?その子と」
「え?!」
「だって、寸前まで・・だったんでしょ?」

「その子の部屋にね、NSPのポスターが貼ってあったんだ」
「それ見た瞬間に恵子を思い出してね・・」
「ゴメン!って部屋飛び出しちゃった」

可哀想にね、その子・・とさゆりさんは笑いながら言った。
「きっと傷付いたと思うよ?彼女」
「うん、オレもそう思った」

「でも、恵ちゃんを思い出しちゃって・・出来なかったわけか」

うん、とボクは湯呑みをあおった。

「新しい彼女とは、出来てるの?」
「・・・」
「今更、なに照れてるのよ、ここまで話しといて!」

確かにそうだけどね、そうストレートに言われると・・とボクは手酌しようとしてまた、止められた。
「ダメって、言ったでしょ?」
「はい」

さゆりさんは、笑いながら注いでくれた。
これではっきりしたね・・と言いながら。

「ノブ君はさ」
「その、新しい彼女には恵ちゃんの事話してるんだよね?!」

「うん」
「全部?」
うん、言える範囲は大体・・とボクは言った。

「そうだよね、言えない事もあるだろうし、新しい彼女も聞きたくない事だってあるだろうし」
「うん」

でもさ、二人で京都旅行出来たって事は、彼女はそんな迷えるノブ君を丸ごと受け止めてるんじゃない?とさゆりさんは言った。

「そうなのかな?」
「多分、ね」
「大した子かもよ?その子」

前の彼女を引きずってる男を受け止めるって、なかなか難しいと思うもん・・とさゆりさんは遠くを見て言った。

「誰だってさ」
「好きな人には、いや・・好きな人だからこそ、自分だけを見てて欲しいじゃない?!」
「うん、そうだね」

「なのに、前の彼女思い出して泣く様なノブ君でもいい・・」
「あ、失礼か、こんな言い方」
「いや、その通りだから・・」

すごいと思うな、同じ女として・・とさゆりさんは続けた。
「それだけノブ君のこと好きなんだね、その子」
「・・・」

不思議な感じだった、恵子の幼馴染が恭子のコトを褒めているなんて。

「明日はさ、私も付き合ってあげるから・・」
「二人でお墓参りしようよ!」
「え、いいよ・・仕事、あるんでしょ?」

「いいわよ、どうせお盆までは暇なんだから」
「有難う」

「でさ、恵ちゃんのお墓に行って、報告すればいいんじゃない?」
「オレは大丈夫だからって」
きっと、私が恵ちゃんだったら安心するな・・と言ってくれた。

「だって、ノブ君も私も・・恵ちゃんに会いたくても会えないでしょ?もう」
「とっとと忘れちゃう人もいると思うけど、今でも恵ちゃんのこと、そんなに思ってくれてるなんて」

私もうれしいよ・・とさゆりさんは、微笑みながら泣いた。

「恵子は」
「許してくれるかな」

「だって」
「じゃ、許さない!ってなったら、どうするの?」
「化けて出て来るかもよ?!」
笑いながらさゆりさんが言った。

「うん、それで会えるんならそれもいいかもね・・」
ボクの本音だった。

「止めな?」
「え?」
「間違っても、新しい彼女の前でそんなこと言っちゃダメよ?!」

うん、分かってる・・ボクは、そう言って大人しく飲んだ。

「すっきりした?」
作品名:ノブ・・第2部 作家名:長浜くろべゐ