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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ・・第2部

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「平気なんだろうか、オレ」

小一時間、さゆりさんは戻って来なかった。
「このまま、寝ちゃうか」
ボクは手酌でビールを飲んだ。

「あ、いけね、出世しなくなっちゃうな・・」と一人で笑いながら。
「恵子、面白いね、さゆりさん」
「きっと、いい人なんだろうな、恵子の幼馴染」

ボクはコップを電灯に透かして、恵子と初めて飲んだ夜を思い出した。

あの時は、トモコさんがさっさと撃沈してくれたお陰で「2人でラッキーってか?!」

思い出して笑った積もりだったのに、また涙が頬を伝った。

「お待たせ〜!」
さゆりさんが、襖を開けて入ってきた。
その姿を見て、ボクは驚いた。

でも、そのコトを言うより前にさゆりさんに言われてしまった。
「あれ、また泣いてる?」
「あは、ちょっとね」

いいわよ、聞いてあげるからさ・・とさゆりさんは手に提げた一升瓶を、ドンとテーブルに置いた。

「やっぱ、これでしょ?!」
「日本酒?」
「うん、この辺の地酒・・美味しいよ!」

上下ブルーのジャージで、胡坐をかいたさゆりさんにボクは言葉を失っていた。
「随分、雰囲気変わるんだね」
「だって着物って、あれは簡単なヤツなんだけどさ、仕事着なんだよね、私達には」

「だから、仕事じゃない時はリラックスしたいじゃない?」
「・ジャージで来るなんて、思わなかった?」

「うん、驚いた」
「シャワーも浴びてきちゃったから、待たせちゃったね、ゴメン!」
「大丈夫だよ、飲んでたから」
「ね、こっちにしない?」

さゆりさんは、言うが早いか一升瓶の封を切って、蓋をポンっと抜いた。

「あ、オレ・・日本酒は、ちょっと」
「なに、嫌い?」
「いや、嫌いじゃないんだけど、前に大失敗したから」

どんな?・・と言いながら、さゆりさんは二つの湯呑み茶碗に酒を注いだ。

「旅先でね、酔っ払っちゃって」
「いいじゃない、酔ったってさ」
まさか、暴力振るう訳じゃないんでしょ?と笑いながら、ボクの前に湯呑みを置いた。

「はい、取って!」
「うん・・・」

少しの間、ボクは湯のみを抱えて迷ったが・・飲むコトにした。

「先に言っといていい?」
「うん、なに?」

「オレがおかしくなったら、放っといてくれるって、約束して?!」
「あはは、どうなっちゃうのよ、ノブ君は」

「前は・・・恵子の名前呼んで、泣きじゃくりながら寝ちゃったらしいんだよね」
「いいじゃん、それも」
「え、だって・・」

「そりゃ、私がノブ君の彼女だったら、とんでもなく辛いだろうけど」
「そうだよね」
きっと、さゆりさんには何気ない一言だったんだろうけど・・・そうだよな、ボクは恭子にそんな気持ちを味あわせていたんだよな。

「私も、恵ちゃんの事で何べんも泣いたからね!」
「寂しいのは分かるもん・・・」
ボクの動揺は、さゆりさんにはバレなかった。

「でもさ、それって・・おかしい事でも何でもないんじゃないの?」
「好きな人が亡くなったら、きっと暫くは誰でもそうなるんじゃないのかな・・ね」

さゆりさんはそう言って、お酒を注いでくれた。

地酒?は、甘口だったがサラっと軽い口当たりで、調子が良ければぐいぐいいけちゃいそうな味だった。
ボクは、ゆっくりと舐めるように味わった。

見ればさゆりさんも、ゆっくりと飲んでいた。
そして、ボクの目を見てまた話し出した。

「恵ちゃんてさ」
「小さい頃から大人しくて・・」

「でも、いざとなると頼りになるって言うか、ちゃんとした事が言える子でね」
「学級会で揉めた時なんかは、最後に先生が恵ちゃんに意見求めてさ」

「私は・・こう思います、なんてモジモジ言うんだけどね、恵ちゃんが」

それが筋が通っててさ、みんな納得、みたいな存在だったのよ・・と。

「だから、クラスのみんなも一目置いてたのね、恵ちゃんには」
「中学でも高校でも、そんな感じだったの」
「でもね、高校二年の時かな、相談されたの、恵ちゃんに・・」

「好きでもない人から手紙貰って困ってるってね!」
「私・・目立つ方じゃないのに、何でだろうって言ってたわ」

私悪いけど、笑っちゃった・・とさゆりさんは、遠くを見ながら言った。

「恵ちゃん、アンタね・・自分では目立ってない積もりでも、充分可愛いし成績もいいんだから、隠れファンは多いんだよ?!って言っちゃったの」
「ノブ君・・覚えてるでしょ?恵ちゃんの目。」
「うん」

ボクは、優しく微笑む恵子の目を思い出して頬杖をついた。

「ぱっちり二重でね、見つめられると私でもドキっとする位、綺麗な目だった・・・」
「おまけに色白でね、鼻筋も、こうスっと通っててさ」

話しながら、さゆりさんの頬をひと筋の涙が伝ったのが見えた。

「大丈夫?」
「どうしても、まだ思い出すと出ちゃうよね、涙が」

さゆりさんは泣き笑いの顔で、湯呑みをグイっと空けた。
「いいの、今夜は偲ぶんだから、飲んで話して泣いて・・ね?!」

ボクにも空ける様に促して、言った。

「ノブ君と2人の時の恵ちゃんってさ、どんな感じだったの?」
「うん、やっぱり、大人しかったよ。でも・・」
「でも?」

「随分、叱咤激励されたね、受験生だったから、オレ」
「そうなんだ・・じゃ、お姉さんっぽかった?」

「そうなのかな、お姉さんみたいなトコと、年下みたいに可愛いトコと混ざってたよ・・」
「あ、そう言えば良く言ってたな」

「何て?」
「私が年上だから、しっかりしなきゃって・・」と、ボクも気付いたら泣き笑いだった。

「オレ、知らなかった」
「泣き上戸って言うんでしょ?こういうの・・」
ボクは湯呑みを置いて、一服しようと煙草を咥えた。

「ハイ」
ボクがライターを持つより早く、さゆりさんがマッチを擦ってくれた。

「有難う・・」ボクは深く吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。
「美味しそうに吸うんだね、煙草」

「うん、美味しいって言うか、助かるんだよね」
「助かる?」
「うん、気持ちや気分を変えたい時かな・・そんな時は、煙草って・・一旦途切れるでしょ?」
「うん」

「だからさ、助かるの」
ボクはセブンスターを見つめて、灰を落とした。

「ノブ君・・・こうして恵ちゃんの思い出話すの、嫌?」
「ううん、嫌なんかじゃないよ、ただ・・」
「ただ、何?」

もう、恵子は戻ってこないんだよね、いくら話してもさ・・と言いいたかったが言わずに我慢した。
途端、堰を切った様に溢れて来る涙をボクは止められなかった。

「ゴメン、そんなに飲んでないのに」
「いいよ、泣いちゃいな?!」
少し位、眼が脹れたっていいじゃん?男なんだからさ・・と。





      告白





さゆりさんは、優しかった。

「きっとさ、ノブ君・・遅れて知らされたのも辛かったんじゃない?」と言った。

ボクは何とか嗚咽を呑みこんで、深呼吸して言った。
「最初は、恨んだよ、どうしてすぐに知らせてくれなかったんだって」
「でも、トモコさんの手紙に書いてあったし、さっき、さゆりさんも言ってたけど、恵子の意思だったんだよね、知らせるなって」

「それ聞いたら、何かさ」
「ごめんね、うまく言えないや!」
ボクは、2本目に火を点けた。

作品名:ノブ・・第2部 作家名:長浜くろべゐ