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長浜くろべゐ
長浜くろべゐ
novelistID. 29160
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ノブ・・第2部

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そして、その内の一枚を貼って投函した。

恭子は賛成してくれるかな・・・と思いながら、心のどこかでは恭子が反対する訳は無いと自惚れても、いた。

「だって、楽しかったもんな・・」
「弥勒菩薩にもまた会いたいし。あ、弥勒菩薩様か!」
独り言を言いながらボクは、三省堂の交差点で信号を待った。

丁度中天なのか、太陽はボクの影を小さくして、頭のてっぺんからジリジリと煙が出そうな程の日差しを届けてくれた。
こっちも夏だよ、恭子・・とボクは太陽を見上げて心の中で言った。

「腹減ったな」
交差点を渡らずにボクはそのまま右に進み、立ち食い蕎麦屋で昼飯を済ませることにした。
ザル蕎麦と天丼の食券を買って、カウンターの向こうに渡した。

あっという間に目の前に並んだ蕎麦と天丼を食べながらボクは、我ながら現金なもんだな・・と半ばあきれた。

「恭子との次の旅を考えただけで、こんなに気持ちが明るくなるなんて」と蕎麦を啜りながら笑ってしまった。

それだけ、恭子の存在が今のボクの救いになっているコトは確かだったから。

昼飯を終えたボクは、途中のマックでアイスコーヒーを買ってアパートに帰り、もう一度、恭子の手紙を読みなおした。

「そう言えば・・」
ユミさんと川村はどうしてるんだろう、と京都で別れた2人を思い出した。

まだ、おばちゃんちで元気にやってるんだろうか、それとも他のとこに遊びに行ったのかな・・と、久しぶりに似合の2人のコトを考えて、ボクはほのぼのした気分になった。

ボクは思い出したついでに・・と言っては失礼だが、川村達にも手紙を書こうと思ってレポート用紙をまた、開いた。

「あ、おばちゃんとこの住所って」

困ってしまった、住所も電話番号も、ボクはメモしてこなかったのだ。
そうだった、親父に礼状位は・・と言われて恭子に聞く積もりだったのに、声聞けた嬉しさに、すっかりその事を忘れていたのだ。
「あっちゃ〜、ぬかったな」

迷った挙句、ボクは104の番号案内に電話した。
「済みません」
「ハイ!」
「詳しい住所が分からないんですが、調べていただけますか?」
「どちらの、ですか?」

「京都タワーの近くの、山茶花っていう民宿、いや・・うどん屋さんかな・・」
「タワー近くの・・さざんか、ですね?」
「はい」

待つこと暫し、案内のお姉さんの声が戻ってきた。

「京都市下京区東洞院通り七条下ル〇丁目に、食事処・山茶花のお届けは出ておりますが・・」
「こちらで、よろしいですか?」

「はい、そこです、そこです!何番ですか?」
「では、ご案内致します。075の・・・」

助かった、これでおばちゃんちの電話番号が分かった。
ボクは早速、ダイヤルを回した。

「はい、山茶花です!」
驚いた、おばちゃんの元気な声が返ってくると思いきや、電話口から飛び出してきたのは川村の野太い声だった。

「元気そうだね」
「え?・・あ、オガワか?」
「うん、元気でやってる?」

「おばちゃ〜ん!!」ボクの問いには答えずに、川村は大声でおばちゃんを呼んだ。

「わりぃ、オレ、これから足りない物を買出しに行くからよ」
「すぐに行かなきゃならないから、おばちゃんに代わるな!」

川村はそう言い残して、ドンッと乱暴に受話器を電話台に置いた。

「もしもし?」
「あ、おばちゃん・・伸幸です」

「あ〜、ノブちゃんか、誰かと思うたわ」
「川村君、おばちゃん電話・・ってだけ言うて、店飛び出して行きよったさかいな」

「どや?東京は・・そっちも暑いんやろ?」
「はい、暑いです。みんな元気ですか?」

「あはは、ユミちゃんも川村君も頑張ってくれてるで!」
「お陰で大助かりや」

良かった・・・元気そうなおばちゃんの声に、ボクは自然に微笑んでいた。

「で?どないしたんや?今日は」

「あの・・・ボクと恭子の宿泊費って、いくらですか?」
「はぁ?」
「ボクら、バタバタと帰っちゃて、東京に帰って来てから思ったんです、お金払ってなかったって」

「・・・・」暫く電話の向こうでおばちゃんは沈黙して、そして笑いだした。

「そんなもん、始めに言うたやないの」
「手伝って貰うたら、宿代はいらんよって」

「私こそ、気を揉んでたんや・・バイト代、渡し損ねてしもうたからな」
「いや、そんなに役に立ってたのかどうか」
「何言うてるの、ノブちゃん!」

「アンタとキョウちゃんのお陰で、私は仕事も助かったし、他にも楽しい気持ちにさせて貰うたさかいな」
「ほんまにアンタらから、お金貰おうなんて思うてへんよ」
「逆に、帰るのが決まったらきちんとバイト代払おうと思ってた位なんやから」

「ほんま、昔の事やら何やら・・・私も若返った気分やったで?!」とおばちゃんは言ってくれた。

「そうですか・・そう言って貰えたら、何か嬉しいな」
「そうや、私はアンタらの京都のおかんやからな!」
「有難うございます」

「川村君もユミちゃんもな・・・」
「一生懸命にやってくれてるさかい、助かってるわ」
「有難うな、ノブちゃん」

こんなに元気な若い子等と仕事してると、自分の歳を忘れてしまうわ・・とおばちゃんはカカと笑った。

ボクは、おばちゃんと話してて益々京都に行きたくなった。
で、思い切って聞いてみた。

「あの、おばちゃん」
「何や?」
「五山の送り火の辺りに、また・・行ってもいいですか?」

「え、2人で来るんか?」
「はい、もしも色んなコトがうまくいったら・・なんですけど」

「なに言うてんの、大歓迎に決まってるやろ!」
「おいで、な?!送り火いうたら・・・来月の16日やな」
「え?16・・なんですか?15日じゃないんですか?」

「なんや、博識のノブちゃんらしくないな。盆の送り火はずっと昔から16日やで?!」

しまった・・・さっき出した手紙には、15日って書いちゃった。
お袋さんの記憶違いだったのか、と悔やんでも仕方無い。
「そうなんですか、間違って覚えてました、オレ」
「でも、行きたいです、そっちに」

「勿論や、キョウちゃんと2人で遊びに来たらええわ!」
「それにその頃は京都市内のホテルやら旅館やらは、ほとんど満員やから、前の日にでもうちに来て泊って、ゆっくり見物したらええし」
「有難うございます、必ず行ける様に頑張りますから」

「そや、ちょう待っててや?!」

ユミちゃ〜ん・・とおばちゃんはユミさんを呼んで電話を代わった。

「オガワっち?どうしたの?」
「いや、みんな元気かな?って思ってさ」
「元気よ、私もアイツも!あ、恭子は?どうしてるの?」

ボクは九州に帰った後の恭子の状況を、かいつまんで話した。
「そうか・・九州に帰ってからは、私も一回、電話で話しただけだもんね」

「でもさ、今時文通なんて、オガワっちと恭子らしくて何か笑っちゃうね!」
「いいよ、遠く離れた2人に似合の通信手段って感じじゃん?!」
「ま、仕方ないよ、かなり絞られたみたいだから」

ボクはここで、恭子の手紙を思い出して、それをユミさんに聞いてみた。
「美術部の合宿の件って、聞いた?」
「あ、アンタ達の悪だくみに協力しろって話しでしょ?聞いたわよ、勿論」

「多分、協力出来ると思うよ」
作品名:ノブ・・第2部 作家名:長浜くろべゐ