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からっ風と、繭の郷の子守唄 第56話~60話

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 「新地地区には、昔のままの建物が15棟も残っています。
 東隣にある新野新田地区には、さらに23棟の養蚕農家が残っています。
 点在しているため、一目で眺望できる場所は残念ながらありません
 雄大な赤城山を背景に、養蚕農家群の勇姿を見られるのは此処からだけです」

 小柄な千尋が、しきりにジャンプを繰り返す。
養蚕農家の7棟が横一列に並ぶここからの景観が、すっかり気にいった
様子がある。
景色をしっかり見たいため、千尋がしきりに飛び跳ねている。
見かねた康平が、千尋の背後へそっと回り込む。
飛び跳ねる千尋のタイミングを測ったあと、ふたたび飛び上がろうとした
瞬間を狙って、千尋の細いウエストへ、康平が両手を添える。

 「あっ」と、千尋が短い悲鳴をあげる。
しかし康平は、構わずヒョイと持ち上げて、そのままスクータの運転席へ、
千尋を立たせてしまう。
意表をつかれた千尋が、康平の肩へあわてて片手を着く。
運転席の上で、千尋がかろうじてバランスを保つ。
両足を踏ん張った千尋が、太腿を康平に支えられる形でようやく静止する。

 「どうです。ここからなら、よく見えるでしょう。
 逢ったばかりのあなたを、肩車するというわけにはいきません
 運転席で我慢してください。
 バランスに充分に気をつけてください。
 この高さからでも地面へ落ちると、ちょっと痛いですから」

 「うふふ。ありがとう。ほんとうに素晴らしい景色です。
 いいと言うまで私を支えていてくださいね。
 記念に、写真を一枚だけ撮りたいの」

 携帯を取り出した千尋が、ベストアングルを狙って身体を構える。
不安定になりかけてきた千尋を、康平が再び両手で支える。
素肌の感触が薄い生地を通して、康平の両手へほんのりと伝わってくる。
撮影に熱中している千尋がまたグラリと、不安定な運転席の上で
バランスを崩す。

 バランスを失った千尋が、体重をすべてかける体勢で康平に
もたれかかってくる。
しかし。バランスを崩した当の千尋は、まったく気にする様子をみせない。
安心しきったまま、傾いた全身を康平に任せている。
しかも、『もう一枚ね!』などと、呑気な声を上げている。
100年以上の風雪を耐え抜いてきた目の前の養蚕農家の姿に、今や完全に
のめり込んでいるちひろが居る。

 「あら!」撮影を終えた千尋が、運転席から康平の顔を見下す。
あられもない態勢をしている自分に、ようやく気が付く。
自分の下半身を、いつのまにかすっかり康平に預けている。
羞恥のため、千尋が一瞬にして、自分の顔を真っ赤に染める。
(あら、また失敗してしまいました・・・・どうしましょう。大失態です・・・)