からっ風と、繭の郷の子守唄 第56話~60話
からっ風と、繭の郷の子守唄(57)
「大河の氾濫が育んできた、肥沃な大地と桑の木の飛び地」
康平のスクーターが、利根川の堰堤へ出てきた。
利根川は、『暴れ坂東』の異名で知られている。
急流れで名高い利根川も中流域のこのあたりから、いくつも支流を集めた
大河に変わる。川幅も広いところで優に500mを超える。
河川敷に農地が見られるようになり、中洲がいくつも流れの中に点在する。
全国的に少なくなった川の渡船が、現在でも四箇所ほどが残っている。
そのひとつが、群馬県伊勢崎市・島村で運行されている「島村の渡船」で、
船外機を取り付けた渡船が、300m余りの水面を往復する。
中央部に強い流域がある。
そのため渡船は、舳先を川上へ向けたまま川面を横切っていく。
水深が浅くなるあたりから、櫂を用いて、人力での接岸作業がはじまる。
「ゆったりした光景です。乗ってみたくなるような、川船の様子です」
「何度も行われた改修工事の末、境町島村の集落は分断されたあげく、
川を挟んで北と南に孤立しました。
利根川の南岸は埼玉県にあたります。
これから行く南島村は、群馬県の『飛び地』です。
あそこに見える橋が上武大橋で、あの南に河川敷のゴルフ場があります」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第56話~60話 作家名:落合順平