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からっ風と、繭の郷の子守唄 第56話~60話

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 約束通り。康平が、定刻の午前8時ちょうどに前橋駅へ到着する。
駅前広場へ置かれた男女の裸像の前で、そわそわとなにやら必死になって
お尻のあたりを隠そうとしている、千尋の姿を見つけ出す。
手前でスクーターを停めた康平が、いつまでも不自然な動作を続けている
千尋の様子を、ヘルメット越しに見守る。

 体型がそのままに露骨に見える、パンツのくっきりとしたラインが
気に入らないのか、千尋が苦戦している。
どうやら、お尻の形が明確に出ているのが気に入らないようだ。
千尋が履いているのは、ニットの素材のパンツだ。
某社がこの春から発売を始めたばかりの、レギンスパンツ。
締付け感がなく、身体によくフィットするため、特にシルエットがきれいで、
脚のラインをほど良く演出するという。
という歌い文句で、若い女性たちからは圧倒的な支持を集めている、
某社が売り出した人気の最新モデルだ。

 試行錯誤を繰り返した末、腰へスカーフを巻き終えた千尋が、
ホッとしたような顔を見せる。
(やれやれ・・・)という表情を見せた千尋が、なぜか康平がいる
方向を振り返る。
康平と目が会った瞬間。『きゃっ』と千尋の口から悲鳴がもれる。
その声が少し離れたここまで、はっきりと聞こえてくる。

 「あらぁ・・・ずっと見ていらしたの?。もしかして。
 いやだわ。恥ずかしいったらありゃしない。照れてしまいます・・・・
 自分なりに身体のラインには自信があったのに、履いてみたらまったく
 別物です。
 もう若くないんだと、つくづく実感してしまいました」

 「もしかして、パンツを履くのは初めてですか?」

 「はい。普段はスカートです。
 糸取り作業をしているときは、体型を隠してしまう作務衣です。
 今日のために、初めてパンツを買ってみました。
 マネキンが履いているパンツが、一目で気に入りました。
 後先考えず、衝動的に買い求めたんです。
 とても魅惑的というか、感心するほど綺麗な脚のラインです、見た瞬間。
 でも現実には、ぜんぜん駄目ですねぇ。
 自分自身を自覚していない人間は、救いようがありませんねぇ・・・」

 「そうでもありません。ベリーショートの髪と良くマッチしてます。
 若く見えて、別の人かなと思わず、勘違いしました」

 どうぞと手招きすると、千尋が嬉しそうに後部座席へ飛んでくる。
千尋の華奢な体が、ふわりとスーパースクーターの後部座席に収まる。
前橋駅前を出発した康平のスクーターが、市街地を東へ向かって
伸びる国道50号を少しだけ走る。
市街地のはずれから、群馬県内を斜めに横切っていく国道17号線へ入る。
国道17号線は群馬と埼玉の県境で、東日本最大の大河、利根川を超えていく。


 「伊勢崎で焼きまんじゅうでしょ。それから大田で焼きそば
 対岸の妻沼町には、ジャンボサイズのお稲荷さんが有るそうです。
 島村の下調べをしているうち、いつの間にか、食べ物の検索に
 なってしまいました。
 うふふ、駄目ですねぇ、根っからの食いしん坊は」

 食べる楽しみは後回しにしましょうと、康平が笑う。
島村に今も残っている巨大な養蚕農家群から、まず見にいきましょうと
康平が、背中の千尋に語りかける。
うしろに乗った直後から、千尋は落ち着かない。
自分の両手のやり場に戸惑っているからだ。
おずおずと康平の背中へもたれかかった千尋が、両手のやり場に困っている。
康平の耳へ、千尋のためらいがちの声が届く。

 「ねぇぇ、どうしたらいいの?・・・・。
 お会いしたのが今日で2度目なのに、腰へ手を回してもかまわないのかしら。
 手を置ける場所がほかに見当たらないし、なんだか不安定です。
 はしたない女なんて、思わないでね。
 会うたびわたしは、大胆を重ねる女になりはじめています。
 自分で言うのも変ですけど、いつもは、おしとやかで控えめです。
 今日に限って大胆すぎるパンツですが、相変わらずドキドキしっぱなしです。
 スクーターの二人乗りって、思った以上に親密な関係になりますねぇ。
 リクエストをした私が、いまさらながら恥ずかしくなってきました・・・」