からっ風と、繭の郷の子守唄 第56話~60話
からっ風と、繭の郷の子守唄(60)
「2階の蚕室に垣間見えた夢の跡と、千尋の遥かなる想い」
「いつの間にか可愛いお嬢さんがお見えです。こんにちは。
ということはうちの旦那は、またどこかで油をうっていますね・・・・。
お連れの男性はきっと今頃は、うちの旦那とオートバイ談義に夢中でしょう。
2輪好きは、すぐお友達になれるようです。
女性のあなたは、見離されて、手持ち無沙汰になってしまいます。
お茶を差し上げますので、どうぞ、こちらへ」
姉さんかぶりを直しながら、奥さんが台所へ消えていく。
1歩目を踏み入れた瞬間。あまりにも綺麗に掃き清められた地面の様子に、
千尋が思わず、反射的に足を止める。
2歩目の足を踏み出していいものかどうか、戸惑っている。
「土足のままで、そのままどうぞ。
躊躇うところを見ると、昔の農家や蚕を飼うお仕事に詳しいようですね。
かつては専用の上履きを用いていましたが、いまは土足で
普通に歩いています。
もう蚕も飼っていません。
ゆえに、衛生に気を使う必要はありません。
ということはあなたは、カイコに関するお仕事をしているのかしら?」
「はい。座ぐり糸の仕事をしています。名前は千尋と言います」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第56話~60話 作家名:落合順平