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からっ風と、繭の郷の子守唄 第56話~60話

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 「そういうあなたも、2輪車がお好きなようです。
 チェックの入れ方が尋常じゃないし、相当バイクに詳しいようですね」

 「俺の愛車は、CBX400Fだ」

 「CBXといえば、ホンダが作ったまぼろしの、伝説の名車です。
 なるほど。道理で2輪が好きなはずです」

 「えっ・・・なんなの。その伝説のCBXって?」


 「盗まれすぎて盗難保険にも入れないという、30年前のオートバイさ。
 ホンダの『CBX400F(400cc)』だ。
 盗難が相次いでいるため、保険の加入を拒否されるという事態になっている。
 発売当時の10倍の価格で取引されている、人気車だ。
 他車種と比べて、3倍以上の盗難率が有る。
 『CBX400F』は、40歳代を中心に根強い人気がある。
 人気絶頂の頃に、生産が終了したということで、いまや希少の価値がある。
 古いブランド車に乗る、ステータス感が生まれてきたためだ。
 生産当時の販売価格48万円が、現在では、150万円前後の高値になる。
 状態の良いものだと、500万円で売買されている」

 「おっ、詳しいなぁ、兄ちゃん。
 2輪の話が出来そうなお客さんが、当家へ来てくれたとは実に嬉しいねぇ。
 ここは個人の所有物なもんで、基本的に、敷地内は立ち入り禁止だ。
 見学の際は、教育委員会の文化財保護課というところへ申請する必要がある。
 できれば5人前後でお願いしますというのが建前だ。
 草でも退治しょうと思って、出てきたところだ。
 が、いいところで、いいスクーターを見せてもらった。
 謝礼代わりに兄ちゃんに、俺の自慢のオートバイを見せてやろう。
 そのあいだ、お姉ちゃんは勝手に屋敷内へ入って見てくるがいい。
 どうぜ、オートバイなんかに興味はないだろう?」

 屋敷の当主と名乗った男が、千尋を見ながら笑う。
『でも申請もしていませんし、当局からの見学許可も、まだ
もらっていませんが』
いぶかる千尋へ、当主が再び白い歯を見せて笑う。

 「杓子定規だなぁ。見かけによらず。
 重要文化財だの、歴史的に貴重なものだと当局は言う。
 だけど建物の保存のために、役所から援助をもらっているわけじゃない。
 自前でやりくりして維持しているのが、このあたりの建物の実情だ。
 お上のためにやっているわけじゃない。
 残してくれた先人たちの偉業に敬意をはらって、維持しているだけだ。
 生活を邪魔しない範囲でなら、自由に見てもらっても結構。
 兄ちゃんとバイク談義をしているから、ゆっくり見ておいで。
 あ。・・・・今の時間、俺のカミさんには、声をかけるなよ。
 お化粧の真っ最中だから、カミさんより美人に声をかけられちまうと、
 ライバル心が湧いてきて、化粧の時間が長くなる。
 玄関を入ってすぐ左側の、囲炉裏のある部屋へ居るはずだから、
 間違っても声をかけるなよ」