からっ風と、繭の郷の子守唄 第56話~60話
からっ風と、繭の郷の子守唄(59)
「個人住宅につき立ち入り禁止。思いがけない千尋の絶望と希望」
「お嬢さん。いつまでも門ばかり見つめていると、
そのうち、日が暮れちまうよ」
邸内から、草退治用の道具を担いだ男があらわれた。
門の正面に立ち尽くしていた千尋が、あわてて男性のために道を譲る。
「ごめんなさい。
立派な門構えに圧倒されて、ついつい、見とれておりました」
「立派なのは外見だけだ。中身は年がら年中火の車だ。
お・・・・兄さんの乗ってきたスクーターか。
なかなかいい趣味をしているなぁ。
3世代目のホンダ・フォルツァか。新車だな。
ずいぶん手入れが行き届いているな。
へぇぇ。兄ちゃん、相当のバイク好きのようだね」
首へ巻いたタオルで汗を拭いながら男が、康平のスクーターを覗き込む。
『いいねぇ』を連発しながら、いちいち指で指しながら、
あちこちを確認していく。
男の様子に康平も、思わず笑みをこぼす。
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第56話~60話 作家名:落合順平