小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

からっ風と、繭の郷の子守唄 第51話~55話

INDEX|9ページ/15ページ|

次のページ前のページ
 


 カウンターの上へ、旬の野菜をたっぷり盛り込んだ特製のサラダが
あらわれる。
中央の部分に、鮮やかな緑色の野菜が載っている。
キラリと輝く海藻のような野菜が『食いしん坊』を自認する千尋の目を、
一瞬にして惹きつける。

 「おかひじき、と呼ばれる野菜です。
 海で採れるひじきに良く似ていますが、陸地で採れる野菜です。
 安価で、その割に栄養が豊富な野菜です。
 マヨネーズに辛子を混ぜたピリ辛い味か、わさび醤油がお勧めです。
 鮮度にこだわった採りたてですので、塩を振っただけでも十分です」

 「おかひじき」の名称はその名前の通り、海草のひじきに似ていることから、
名前が付いたといわれている。
海岸の砂地に自生していたアカザ科の野草だが、いまは山形県の内陸部を
中心に、生産が盛んだ。
置賜地方でとくに、昔から栽培されている。

 5月初旬に種をまき、6月初旬頃から収穫がはじまる。
生命力が強く次々に芽吹くので、夏の終わりまで食べることが出来る。
ハウス栽培が盛んになったことで、3月下旬から11月上旬まで市場に出回る。
美しい緑色と、独特のシャキシャキした食感、栄養価的にもとても優れている。
 
 江戸時代。庄内浜で取れていた「おかひじき」の種が、船で最上川を上る。
船着場の砂塚村(現在の 南陽市)へ植えられたのが、栽培の始まりと
されている。
その後。各家庭の畑でも栽培がはじまり、山形県を代表する夏野菜として
好んで食されるようになった。
 
 「陸のひじき」の名前の通り、カルシウムやカリウム、ビタミンA、鉄分、
マグネシウムなどが多く、カロテン、ビタミンCも豊富に含まれている。
鮮やかな濃い緑色で、艶のあるものが食べごろになる。
若い芽の部分が、特に美味しい。
育ち過ぎた幹の部分はも固くなり、食感を損ねる。
したがって下ごしらえの時に、丁寧に取り除いておく必要がある。
茎が太くなり、全体的に大きく成長したものは、固くなっている場合が多い。
適正期に収穫したものを、選ぶことも大切になる。

 『美味しいですねぇ、やみつきになってしまいそう』と、千尋が目を細める。
「野菜は、鮮度の中に美味しさがあります」康平もまた、嬉しそうに目を細める。

 「無農薬の野菜が出回っていた頃は、形や大きさが、
 さまざまになることが当たり前でした。
 ところが、曲がったキュウリが嫌われ、いびつなナスが規格外と
 呼ばれる時代がやってきました。
 大きさの揃った形の良い野菜が、優良品と呼ばれるようになりました。
 消費者たちも、そうした野菜に飛びつきます。
 多くの農家は今でも、自給用の野菜を無農薬で育てています。
 無農薬で育てたキャベツや白菜は、虫に食われてあちこちが穴だらけです。
 化学肥料と農薬によって生産された野菜には、虫どころか、蝶々も集まりません。
 虫さえ食わない野菜が、美味しいはずがありません。
 そのおかひじきは、五六が自家用に育てた野菜のひとつです。
 美人の双子姉妹を、安全な野菜で育てたいと願っている、
 親心が込められています。
 五六もまた、『こだわり』をもった本物の、野菜作り職人のひとりです」

 「異論ありません。私もたしかに、そう通りだと思います」
箸先を止めたまま千尋が、同感ですねぇと、笑顔でうなずく。