からっ風と、繭の郷の子守唄 第51話~55話
「はい。躾を受けました。
着物を着て、華やかに変身しても、箸の使い方が乱れていては、
本物の大和撫子にはなれません。
背筋を伸ばして着物を着ること。
常に明るく、元気にお返事すること。
正しく箸を持ち、お作法を守ってお食事をすること。
この3つを、徹底的に教わりました。
でも先ほどの指をつかってのつまみ食いが、私は、
一番美味しいと思いました!。
そういえば和食の職人さんは、小豆を用いて箸使いを習得すると、
聞いた覚えがあります。それは本当の話なのですか?」
「はい。和食はそのような世界です。
指先の感覚と同様に、箸の先端部分から伝わってくる信号を大切にします。
温度は感知できませんが、硬さや柔らかさは、箸先から瞬時に
伝わってきます」
「お箸で触れただけで、硬さが判断できるのですか?」
「全てにおいて、味見をするわけではありません。
目で見ただけで、判断する場合もあります。
また、指でいちいち触るわけにもいきません。
そのために、箸先で軽く触れて確認するときもあります。
音で聞き分ける場合もあります。
職人さんの仕事は、5感の全てをつかいます。
正しく信号が伝わってくるのも、正しい箸の持ち方をしているから
出来ることです。
基本を正確に身につけるということが、大切なんです」
「私も同感だと思いです。
和風のお仕事に関わるみなさんは、一様に似たようなことをおっしゃます。
その道の職人さんになればなるほど、強い『こだわり』をお持ちのようです。
康平さんも、特別のこだわりをお持ちですか?」
「う~ん。難しい質問です。
美味しい水と、採れたての瑞々しい食材さえあれば、美味しい料理が
生まれてくると、僕はかたくなに信じています。
野菜作りのプロである農家が、丹精をこめて作り上げた野菜は格別です。
畑で直接食べる野菜の味は、驚きを通り越して感動さえ覚えます。
野菜嫌いな子供たちを畑へ連れて行き、採りたての野菜を片っ端から、
食べさせてみたいと思います。
ピーマンが嫌い。人参が大嫌いだという子供たちに、もぎたてのピーマンや
掘りたての人参を、問答無用で口の中へ放り込みます。
一発で、子供たちの野菜嫌いが治ります。
採れたての野菜には、それほどの説得力があります。
採りたてのみずみずしさの中には、野菜本来の美味しさと栄養が、
ぎゅっと詰まっていますから」
「康平は『自然派』だと言っていた、五六さんの説明がそれで理解できました。
あら。こちらは、実に鮮烈な緑色の美味しそうな野菜ですねぇ!
はじめてみるお野菜ですが、これは一体なんですか?」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第51話~55話 作家名:落合順平