からっ風と、繭の郷の子守唄 第51話~55話
からっ風と、繭の郷の子守唄(54)
「厚かましいお願いに、愛車フォルツァとともに動き始める康平の恋心」
「もうひとつ、お願いがあります。聞いていただけますか?」
箸の先端を揃え、箸置きへおさめた千尋が康平を見上げる。
まっすぐな目で見つめてくる千尋の真剣な表情に、思わず康平が息を止める。
強い意志を、千尋の眼差しから感じたからだ。
思わず、「はい。」と答える。
頭からハチマキを取り、小さく折り畳みながら背筋をシャンと伸ばす。
「拝聴します」と両手を背中へ回し、すこし胸を反らす。
「そんなに構えないでください。切り出しにくくなります。
私の悪い癖です。
お願い事をするとき、最初に、断りきれない雰囲気を作ってしまいます。
3年前に徳次郎さんの所へ、お願いに上がった時もやはりそうでした。
真剣な目で見つめられてしまったら、断わるわけにいかなくなる。
お前さんは人にものを頼みこむ天才だ、と、徳次郎さんに笑われました。
ごめんなさい。まっすぐ前にしか進めない、不器用な女です」
「あなたのように正面から見つめられ、物事を頼まれたらおそらく、
みんな、そういう結果になると思います。
覚悟は出来ています。出来る範囲であれば、なんでも応えます」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第51話~55話 作家名:落合順平