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志旬季。

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急いで出て行く江田を見送る余裕も無く、汚れたパソコンをまた隠す。ふと時計を見ると、二つの針が6を指していた。
「ヤッベ、こんな時間じゃねえか」
さっきまで真っ白になっていた頭を切り替え、勉強へと姿勢をうつした。
 時が経ち、期末テスト当日になった。成績は自己記録を大きく上回り、推薦はすぐそことなった。だが、俺の顔は相変わらず曇ったままだった。パソコンが壊れてからメルンは何をしているだろう。返信も出来ない辛さに俺は時々、眉間にしわが寄る。もしかしたら、俺の事なんか忘れているかもしれない。それにインターネットで繋がっていたとしてメルンがどんな奴で何処にいて…そして本当に同い年なのか?という思いがこみ上げて来た。今まで親しくしていた奴を疑うなんて…自分でもビックリして部屋で頭を抱えた。下からは両親の笑い声が聞こえて来る。弟と俺の受験が上手く行きそうで余裕ができたんだろう。そういえば弟には最近、顔を合わせていない。弟のドアをノックした。答えが無い。「入るぞ」と言って入ると相変わらず俺と同じように勉強ほったらかしで、ゲームじゃねぇかよ。弟が俺を二度見すると、焦るようにDSを閉めた。
「言わないでくれよ。かあさん、今上機嫌なんだから」
そういう問題か、と思ったが用件を思い出し弟に問いてみた。
「勉強、捗ってんのかよ。」
自然に切り出したつもりが不自然になってしまった。
「かあさんから聞いただろ。じゃなかったら、こんなに楽してらんねぇよ。」
背伸びして言う弟の背中は思った以上に大きくなっていた。なんだか自分が父親になったみたいで、正直嬉しかった。
「おい、兄ちゃん!何ボーッとしてんの寒いから閉めて。」
理解に数秒掛かったが「ああ」といい、ドアを閉める。
「あと用件は?無いんだったら勉強した方がいいんじゃないのー。」
急に皮肉っぽく言って来たので何か焦っていると読んだ。弟がそんな風に誤摩化すときは、たいていそんな事だ。
「なんだよ。また何か隠してんのかよ?」
俺が冗談まじりにくすぐると、散らかった机がさらに乱れて受験資料らしき物が床に散乱した。元々の床も汚かった為、余計にぐしゃぐしゃになったのかもしれない。
「あーあ。兄ちゃんはドジだなぁ」
お前が暴れたせいだろ、と言うセリフは飲み込んでおこう。一緒になって片付け始めた俺はふと、さっきまで弟がいじっていたDSに目が着いた。弟が後ろの書類を拾っているうちに俺はDSをそっと開けると、インターネットに繋がっていた。そして次の瞬間、頭に光が走った。
「おっおい。これ、どういう事だよ!」
声の音量がどんどん上がる俺に困り顔の弟は平然とした口調で「何が?」と言って来た。
「このブログを…何処で見つけたんだよ!」
ヒステリックになった俺の声は古い家に響いた。
「友達がすすめて来たんだよ。今、めっちゃ話題になっててさ。人気のブロガーなんだってさ。それで…」
その後は聞こえなかった。と言うよりは俺の方がシャットダウンしたんだと思う。弟のDSを今にも奪いたい。そんなとき、ふと疑問が浮かんだ。
「お前は、コメントしたりするの?」
「ああでもさ、最初直メール来たと思って返信したんだけど、それから滅多にメール来なくて。忙しいらしいからしょうがないよ」
☆俺は躊躇いながらも尋ねた。
「なぁ…”ダイヤモンド”って言う奴、知ってるか?」
「ああ。メルンさんと関わりのあった人だろ?」
「そいつの事…なんか言ってたか?」
弟は少し考えた後に思い出したように顔をあげた。
「だいぶ、ブログに出してたからなぁ。でも、突然通信が切れたらしくて…。コメントではみんな『はめられたんだよ』って言ってたけど、信じてないんだよ」
俺は咄嗟に弟の3DSを借りて、その時のブログを見る。
「1月6日/12:53 ダイヤモンドさん
最近、ダイヤモンドさんが返信をくれません。
こんな事言ったら、だまされたとか言われるかもしれないけど
私は信じています。皆さんがなんと言おうと。」
この後には、メルンの後ろ姿の写真が載っていた。自分は本物だと示す為だろう。
「この時からだよ。自分の後ろ姿を載せてんのは。可愛いよなー」
思ったより髪が長くて、自分と同じ位の身長だろうか。他のブログの後ろ姿でも表情は読み取れないのに、写真に引っ張られる何かがあった。まだ本人とは断定出来ないはずなのに、俺の頭の中ではすんなりとメルンだと分かった。
「メルンさんがどうかしたのか?」
ボーッとしていた俺に弟が不思議そうに聞いて来る。
「あっ、いや」
明らかに不自然な、会話だったが気を紛らわす為に自分の部屋に戻ろうとした、その時。
「このブログ見たいなら、パソコンかスマホで出来るだろ」
「知らねぇのかよ。受験勉強と同時にスマホ、取り上げられただろ」
「あーそっか。でも、パソコンがあるだろ。」
俺は明らかに焦りを隠せなかった。
「えっ…兄ちゃん、また壊したのか?」
「こッ…壊す訳ねぇだろ!バカ、言うなよ。」
何かを察した弟は、躊躇無く俺の部屋に入って来た。
「ちょっ何してんだよ!」
様々な焦りを隠せなかった俺は弟の前に立ちはだかった。
「パソコン、借りるよ」
「いや…今使用中で」
「何処にあんのかなぁ?」
バカにする様な口調に怒りを覚えた俺は、
「いいから!勝手に入ってくんな!」
それから、ドアの外でパソコンコールが始まった。下にいる親に聞こえてしまう。
「兄ちゃん…DS貸せないけど、スマホ貸すから教えてよぉー」
急に弟ぶるのが、憎たらしかく中学生のくせに生意気だな、と思った俺はたまらずドアを開け
「弱みを握っても絶対。絶対!誰にも言うなよ!」
俺は念に念を押して、ゆっくりと例のパソコンを取り出す。
「ウワァーーオ!やっちゃったね、兄ちゃん。」
「しー!静かにしろよ。お前と同僚にしか言ってねぇんだから。」
「マジかよ。いつか、バレるんだろ?」
これには、何も言えない。
「で、なんで兄ちゃんはメルンさんのブログを見たいんですかー?」
またおちょくってきた。弱みを握られた今では反論は出来ない。昔から弟は人の弱みを探すのが得意だ。☆仕方なく、でも俺は誤摩化そうとした。
「俺のクラスでも流行ってるからさ」
明らかに嘘なのに、弟は興味が無くなったように部屋から出て行った。俺は深くため息をつくと、ふと大事な事を思い出し、ついさっき出てったばかりの弟を再び追いかける。
「おい!スマホ、貸してくれる約束だったろ!」
自分の部屋でニヤニヤしながら待っていた弟は、さらに俺を問いつめる。
「なぁ、なんか隠してんだろ?」
急に上から目線で言って来た弟から力任せにスマホを奪う。
「しばらく、借りるからな」
俺がそそくさに部屋から出て行こうとすると、
「履歴、消しても無駄だからねぇ。」
この日は夜遅くて、とてもブログを見る気にはなれなかった。眠ろうとしても、眠ろうとしても、メルンの事が頭に回る。手に弟の携帯を握り、メルンの事を打ち消すように無理やり目を閉じた。
作品名:志旬季。 作家名:☆自転車☆