からっ風と、繭の郷の子守唄 第46話~50話
「安心しろ、康平。
こいつは俺たちが調達した、消毒用のとっておきの秘密兵器だ。
心配には及ばない。この辺りではよくあることだ」
「よくあることだって? いったい、どう言う意味だ」
「まぁいい。説明するから、準備ができるまでとりあえず座ろう」
制帽を脱いだ五六が、石垣へ座り込む。つられて康平も、
五六の隣へ腰を下ろす。
周囲を見回せば、準備ができるまでの時間を潰すため、木陰のあちこちで、
分団の男女が入り乱れて談笑をしている。
「仲がいいんだな、みんな。けっこう楽しそうに、談笑しているぜ」
「当たり前だ。同じ釜の飯を食う、消防の仲間だ。
火災が発生すれば、俺たちはみんな危険を承知で現場へ向かう。
俺たちの他に、正規の消防署や、近隣市町村の消防団も
一斉に駆けつけてくる。
だが放水が行えるのは、先着した消防団だけだ。
それ以外の多くの団員は、知人を見つけては「おうっ、久しぶり~」
「どげんしとった」「元気かや」などと、燃え盛る住宅を取り囲んで、
談笑するのが関の山だ」
「へぇぇ、そんなもんなのか、火災の現場は」
「まぁ実情は、その程度だ。
幸いなことに、1年あまり住宅火災が発生していない。
だが住宅火災が無い代わりに、別の問題があちこちで発生するようになった。
草が枯れた頃に発生する『野火』だ。
原因は、急激に増えてきた耕作放棄地の拡大だ。
雑草が伸びすぎてしまうと、ロータリーでも歯が立たず、
そのままに伸び放題になる。
そいつに火がつくと、山や林にまで燃えひろがることになる。
だからこいつを格安で、買ったんだ」
「格安で買った?。買えるのか、そんな簡単に消防車両が」
「役目を終えた消防車両の処分は、自治体に任されている。
海外の後発地域へ提供されるケースなどもあるが、余計な金がかかる。
たいていは廃棄処分か、下取りへ出される。
中にはインターネットで売り出す自治体もある。
こいつの落札価格は30万だ。
落札をしたその日から、こいつは俺たち専用の消毒用のポンプ車だ。
お・・・・そう言っている間に、どうやら準備が終わったようだ。
それでは行こうか。いよいよ本番だ。
ようやく本日のメインイベントの、はじまりだぜ」
作品名:からっ風と、繭の郷の子守唄 第46話~50話 作家名:落合順平