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からっ風と、繭の郷の子守唄 第46話~50話

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 しびれ続けている指先を軽く動かしながら、康平が美女へ苦笑を返す。
康平の肩へ手をかけて立ち上がった長髪美女が、自分の腰へ両手を置く。
美女の目が、ずぶ濡れと化した、一ノ瀬の大木を下から見上げる。
激しくしたたり落ちる消毒液の様子は、夕立が通り過ぎた
あとの光景のようだ。

 多くのアメリカシロヒトリの巣を叩き落としたあと、
根元に大きな水たまりを作っている。
5分足らずのうちにこの大木は、ドラム缶10本分に相当する大量の消毒液を、
頭上からいやというほど浴びている。

 「最終の仕上げに入るぞ。
 第1班は、タンク車の内部に残っている農薬を洗浄してくれ。
 第2班は、消火栓から水を引き、通学路の洗浄作業へ入る。
 丁寧に作業してくれよ。子供たちの安全を確保することが第一だ。
 残った者は、桑の大木の下へ竹箒(たけぼうき)と袋を持って集まってくれ。
 落とされたアメヒトの巣を、すべて残らず回収する。
 こいつのちほど、川原で焼却処分する。
 さて第3分団の5人の美女と、応援に駆けつけてくれた第3団員の諸君。
 君たちの協力に、心から感謝する。
 あとは俺たちが片付けるから、撤収してくれ。
 君らには、ひとつ大きな借りができた。
 何かの機会に必ず、倍にして返す。
 分団長として君らに約束する。ありがとう、助かったぜ、今日は!」

 「水臭いなぁ、五六。
 みんなどうせ、頭から足元までずぶ濡れの状態だ。
 あと10分や20分間、濡れたまま我慢するのは、どうこうない。
 最後まで手伝おう。
 どうせお前さんに貸しを作るなら、貸しは大きいほうがいいのに決まってる。
 ということだ。集まった3分団の団員と美女の諸君。
 最後まで任務を全うしてくれ。
 これは第3分団の分団長の命令でもある。よし仕事にかかれ、みんな!」

 第3分団の団長の声に、美女軍団が黄色い声をあげ賛同の反応をみせる。
『すまねぇな』と笑う五六へ、『貸しは、高くつくぞ』と
3分団長もニヤリと笑う。
男と女が、最後の作業のために散会していく。
腰に両手をあてたまま大木を見上げている長髪美女と、肩を並べて康平が立つ。
濡れきった一ノ瀬の大木から、風が通り過ぎるたびに、アメリカシロヒトリの
巣が、音を立てて地上へ落下してくる。

 「それにしても、スゴイ光景だな・・・・
 一ノ瀬の姿にもすごいものがあるが、消防団の君たちの協力ぶりというか、
 ボランティア精神に、脱帽する。
 まったくもって、心からの敬意に値するなぁ」

 「そういうあんたもそうさ。康平くん。
 あんたも含めて、みんな、ここで生まれた大地の子だ。
 田舎が荒れていくのを黙って見ていられない。
 畑や田んぼが、荒れていくのなんか見たくない。
 だけどここには、それだけの現実がある。この大木の一ノ瀬のようにね。
 五六の言い分じゃないけど、今にこんな仕事が、
 あたしたちの本業になるかもしれない。
 そうなったらそれで、またわたしたちは頑張るわけよ。
 消防はみんなの財産を守る、縁の下の力持ち。
 どう康平くん。30を過ぎた子持ちのワケ有り女も、それなりに、
 けっこう良い女に見えてきたでしょう」
 
 「うん。かなりの美女だと思うよ。君は」

 「嘘をつけ、康平。美女ではなく、
 本当は、びしょびしょって言いたいんだろう、私のことを。あはは」