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からっ風と、繭の郷の子守唄 第46話~50話

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 時間にして数十秒。
突然やってきた突風は、放水をあざ笑うかのように翻弄したあと、
やがてゆっくりと、麓に向って移動していく。

 「なんだったの。今の突風は・・・・」

 長髪美女の黒い瞳が、麓へ下っていく突風を見送る。
勢いを失いはじめた消毒液の放物線が、距離を落とし、円弧の中で形を崩す。
「終わったみたいだな。無事に・・・」康平が、ほっとため息を吐く。
全身にこめていた力を緩める。びしょ濡れの指先を、筒先から外そうとする。
だが本人の意思に反して、堅くこわばった両手の指は、いくら外そうとしても
全く動かない。
ホースを握ったまま、ビクとも動かない。

 「力を入れて握り過ぎなの、康平くん。
 ポンプ操法の心得が有っても、実戦となるとまた別の話です。
 初めて出動した団員は、みんな経験するわ。
 力を一箇所に集めてしまうから、指が固まるの。
 外してあげます私が。愛をこめて、うふふ」

 固まった指は、自分の意思だけではどうにもならない。
こわばったままの康平の指を、長髪美女が一本一本、筒先から
丁寧に外していく。
極度の緊張状態から開放されても、予想以上の力が加わってしまった指先は、
美女の手助けにも関わらず、水滴が滴る筒先からなかなか離れない。

 (可愛いところがありますね、康平くんは
 私を助けたい一心で、先端まで飛んできてくれたくせに
 自滅するとは可愛いわ。
 でももういいのよ、全部終わったから。
 力を抜いて、深呼吸して。無事に終わったんだから。
 あなたの気持ちは充分に見せてもらいました。
 ほら力を緩めてったら、康平くん)

 水滴で曇りかけているメガネ越しに、長髪美女の優しい瞳が、
康平の目と鼻の先で優しくほほ笑む。

 「見ると、やるとではまったくの大違い。よくわかったでしょう、現実が。
 でも嬉しかったなぁ、あんたの男気。
 突風が来た瞬間。とっさに庇ってくれた時なんか、私もジンとしちゃった。
 とぼけていて、表情に出さないくせに、そういうところだけは、
 しっかりとしているんだもの。
 だから美和子がいまだに、あんたにのぼせているんだろうな。
 久しぶりに男の人から、温かい気持ちをもらった。
 さぁ、仕事は終わったわ。撤収の準備をしましょう。
 まだ、もうひと仕事が待っているからね。
 残留農薬を洗い流して、子供たちのために、通学路を綺麗にしましょう。
 あ、・・・・外しちゃ駄目よ。
 清掃作業が全て終わるまは、マスクもメガネも、そのまま着用していて。
 最後にマスクとメガネも洗浄します。それで本当に終わりです。
 残念でしたねぇ康平くん。
 マスクとメガネが外せれば、感謝のキスくらいはプレゼント出来たのに。
 やっぱり縁がないのかしらねぇ。わたしたちは。うふふふ」