きっとすべてうまくいく 探偵奇談3.5
夢枕
夏の座敷。風鈴が鳴っているのが聞こえる。縁側で昼寝をしていた瑞は、目を覚ました。寝起きの頭で考える。なんだろう。ここはどこだっけ。
あ、そうだ。夏休みだ。たっぷり川で遊んで、蝉取りに行って、ばあちゃんたちと素麺食べたら、眠くなって。お母さんたちが迎えに来る前に、ちゃんと宿題終わらせなくちゃ。
涼しい風が入り込み、心地よい。畳にくっつけていたほっぺをかきながら、瑞は身体を起こした。
「誰もいない?」
祖母がかけてくれたのだろう、柔らかなタオルケットが腹を隠していた。
家の中は静まり返っている。
「…じいちゃん、ばあちゃん?いないの?」
柱時計はコチコチと振り子を揺らし、午後二時を指している。セミの鳴き声、縁側から見る空は眩むような青さだ。庭の小川には、畑で採れたスイカやきゅうりが冷やしてある。祖父母はたいてい、ここから見える庭の畑にいるのだが、見当たらなかった。
どこに行ったのだろう。
瑞は起き上がり、静まり返った家を徘徊する。光の入らない廊下は薄暗く、夏だというのにひんやりしている。素足で踏む板の間は冷たい。
「じいちゃん…ばあちゃん…」
しん、とした家に響く自身の声が、なぜだか恐ろしく感じる。祖父母でない者が返事をするのではないかという根拠もない不安に、幼い瑞は足をとめた。この家が好きなのは、祖父母のことが大好きだからだ。誰もおらず静まり返った家は、それだけでなんだか別の場所の様に思える。祖母がたてる炊事の音も、祖父が観ている高校野球の中継の音も聞こえないなんて。
作品名:きっとすべてうまくいく 探偵奇談3.5 作家名:ひなた眞白