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レイドリフト・ドラゴンメイド 第11話 幻の神力

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「そこのあなた! ボルケーニウムは土に還るのが弱点だと言いましたね?! 」
 初めてボルケーナが、三種族の個人を指さした。
「は! はい! あの時の無礼は恥じ入るばかりで――」
 あの時の天上人は、怖さのあまり余計にしゃべっていく。
 ボルケーナは、その言葉にかぶせるように、大声で説明していく。
「わたしはそれを弱点だとは思っていません!!
 なぜならボルケーニウムの性質は、土に還る事と、土に埋まった天然資源をボルケーニウムに変えることだからです!!
 お恥ずかしながら、どうやって動いているかは私にも誰も分からなかったのですが!!
 ちなみに、今回の惑星全領域双方向報道は日本政府の依頼によるもので、1日に6400万円です!! 」
 ウインクした肉食恐竜怪獣態は、再び土砂崩れのような音を上げ、今度は空を映した。
 そこにあったのは、青空でも星空でもなかった。
 三日前に消え去ったはずの、灰色の成層圏エーロゾル。
 それが中心に輝く赤い光を浴びて、輝いている。
「二酸化流黄ガスも、例外ではありませんよ」
 赤い光から、同じ色の触手が何本も伸びる。
 触手の先は分裂を繰り返し、エーロゾルの雲を突き進む。
 ボルケーナ分身体が中心に居るのだ。
「成層圏に、8億トンありました。
 今自撮りした怪獣は全長50メートルの肉食恐竜型で体重2万トンぐらいだから、4万匹分になりますね」

 ディスプレーの中で成層圏エーロゾルはボルケーニウムに還られていく。
 触手を伝い、中心に集められる。
 やがて、成層圏エーロゾルはすっかり消え去り、星空が広がった。
 その中心に居るのは、巨大な翼をもった何か。
 ケーン! 一声鳴くと、それは羽ばたいた。
 鋭いくちばし。後頭部から伸びたトサカ。蝙蝠のような被膜に覆われた翼。
 真っ赤な翼竜だ。
 翼竜とは、恐竜時代に空を支配した爬虫類。
 今、ネックレスのように胸に下げるのは、ディスプレー。
 その羽が空気をとらえ、滑るように降下する。
 その先には、地域防衛隊!
「大丈夫。殺しはしません」
 地上をかすめた翼竜怪獣。
 それだけで突風が吹き、木々は揺らめき、土煙が舞う。
 その瞬間、銃火が激しく吹き荒れた!
 だが、翼竜怪獣は自撮り怪獣の頭上を悠々とかすめて飛び去った。
 去る瞬間、その硬そうなくちばしをグニャリと曲げた。
 突風の下で銃声が止むのを見て、満足して笑ったのだ。
 そして、はるかな山なみの彼方へ去っていく。
「先ほど、私の分身怪獣は4万匹と言いましたが、それではとても足りません。
 ヤンフス大陸の面積は約1兆5億平方キロ。
 それを4万で割っても、375万平方キロに1匹。
 地球で言えば欧州連合や、インドと同じくらいの広さに一匹なんですが、こちらではどうですか? 」
 真志総理は、この説明で天文学的という意味を再確認した。
 一瞬気が遠くなりかけたが、何とか耐え凌ぎ、スイッチア側に目を向ける。
 ……何も起こらない。
 彼らはただ、ディスプレーを見ているだけだった。
「ですから、この星みんなの協力が欲しいのです!
 ここで何が起こったかを皆で知り、皆で一斉に考える。
 それが成功に近づく道だと考えます! 」
 ボルケーナは、語気を強め、怒りをにじませながらそう言い切った。
 そして、足をわざとらしく踏み鳴らしながらディスプレーに向きなおる。

 真志総理は、この光景にこそ気が遠くなった。
 しかし、日本の最終決定をする者として、気持ちを切り替えなければならない。
(もう一度。質問をしてみよう)
「あの、火山から放たれたガスは8億トンとおっしゃいましたが、それは今どこに保管されているのですか?
 また、移送方法は? 」
 真志総理の質問に、ボルケーナは一瞬肩を震わせた。
 それでも、画面を切り替えた。
「移送にはスイッチアの太陽を利用しました。
 恒星は、高いエネルギーを持つ量子を放ちます」
 ボルケーナ人間態は振り向くと、手にボルケーニウムを集め、円盤状に固めた。
 まず、右手に持った真ん中がへこんだ凹面鏡のような物を示した。
「これがボルケーニウムミラー。
 量子の振動をそろえ、一点に集中させることでスイッチアへのポルタを作ります」
 左手に持つのは、平らな円盤。
「これがボルケーニウムフィルター。
 通した量子を超小型ブラックホールに変えます。
 変えた超小型ブラックホールはポルタを通してスイッチアの成層圏まで送り、火山ガスを吸い取ります」
「ハイ! 質問! 」
 総理の隣にいた男が手を上げた。
 真志総理のコートを脱がせた公的秘書だった。
「ミラーとフィルターとおっしゃいましたが、それでは光を通さないと思うのですが」
 そう、ボルケーナが示した物は、赤くて丸い板だ。
 それに対する答えは。
「もし100%光を通したら、スイッチアは焼け焦げますよ」
 説明を続けます。と言って、ミラーとフィルターは皮膚に戻した。
「回収したガスは、スイッチアの低軌道衛星として固めて置いてあります。
 怪獣はここから降下させています」
 灰色のモコモコした丸い物が、暗黒の空間に漂っているのが映し出された。

 真志総理は、再びスイッチア側を見た。
 変わらず、驚愕と不安が詰まった目でディスプレーを見ている。
(もしや……)
 彼の頭に、恐ろしい想像がよぎった。
(考える、質問する、意見する、だけではない。泣く、怒る、気が狂う。
 いずれを選べばいいのかも分からない、と考えているのではないか? )

 その時、魔術学園生徒会の方から、赤いガス状の物が流れてきた。
 ガス状の何かは、未だ黙して語らないマルマロス・イストリア書記長と、ヴラフォス・エピコス中将の頭を包み込んだ。
「おい! テレパシーで頭をのぞいても証拠とはならないぞ! テレパシスト以外の人間には証明できないから! 」
 真志総理の言葉に、落ち着いた声が返ってきた。
 そこにいたのは、金色の髪を頭の後ろできつく団子にしている、赤い瞳の小柄な女子高生だった。
 その透き通るような白い手から、あの赤いガスはわいていた。
「わたしはティッシー・泉井。これはテレパシーではありません。
 どんなわずかな可能性でも一つだけ100%に変える能力、スカラーブースターと言います」
 今までうつむいていたマルマロス書記長の黒い顔が勢いよく上がり、口を開き始めた。
「すると……あなた方が練習もなく、いっぺんで異能力による作戦を成功させたのは……」
 書記長の生気のない声に、ティッシーは自信たっぷりに答えた。
「そう、私のおかげです」

「地球人は……なぜ……軍隊ではなく……」
 顔をしかめさせ、喉からしぼりだすようにして、エピコス中将が話し出した。
「PP社と言う、民間企業に戦争を行わせるのですか……」
 やっと出た質問だ。真志総理が答える。
「我々としても、最も責任をともなう行為を彼らに押し付ける事に対して、心を痛めています。
 ですが、これはあなた方にとっても大変不愉快な話なのですが、人間と言う種族は、もともと異能力を使いにくい種族らしく、他の使いやすい種族からもっとも劣った種族と差別されやすいのです。