レイドリフト・ドラゴンメイド 第11話 幻の神力
しかも、私たちの地球は戦争が平均より多いらしく、その国家の評判はどこもどん底です。
そのため、可能な限り中立な民間企業に任せた方がよい、という結論に達しました」
マルマロス書記長も、質問を始めた。エピコス中将と同じ顔で。
「異世界に召喚される戦士が……、ほとんど子供なのは……、どうしてだと思いますか」
真志総理は、それにもよどみなく答えた。
何度も行い、行われた物を見て、慣れていたからだ。
「子供の方が力が弱く、言うことを利かせやすいからですよ。私も紛争地帯で兵士として使われているのを見ました」
真志総理の顔が、うんざりした感情で歪む。
「子供でなくては使えない異能力もあるらしいですよ。そういうわけで英雄視されるのも理由でしょう。
困ったことに、こちらが大人を交渉役として派遣しても全く話を聞かず、結局それ相応の能力と実績を持った子供を交渉役としなければならない事があるのです」
静かな怒りが炎となって、口から噴出されたような声だ。
ゴゴゴ ゴゴゴゴゴ
突然、三種族の背後から重い鉄のこすれる音が響いた。
そこには、市役所の掩蔽壕へ小型飛行機や戦車などを余裕で迎え入れる、巨大なシャッターがある。
必死の形相で数人の自衛官が開けている。
その向こうには、巨大な鉄の塊、10式戦車があった。
魔法火の台に載せられた三種族は、戦車同士の隙間からさらに向こうを見た。
まず、高い塀に囲まれた、市役所周りの広大な広場。
ここには普段なら市民の憩いの場。子供向けの滑り台などの遊具もある。
だが今のような場合は、貴重な市民の避難所になるはずだった。
それが、いるのは自衛隊だけ。
チェ連人達は、地球人を信じることはできなかったのだ。
そして、広場の向こうは、真っ赤だった。
フセン市が、燃えていた。
市役所と同時期に作られた掩蔽壕状の建物も、歴史を感じさせる漆喰づくりのアパートも、石積みの高い塔を持つ城も、夕方の空の下で燃えていた。
しかも、その火を放ったのは地域防衛隊。
普段は他の仕事をしながら、有事の際は武器を持って戦う、地元の有志達。
「陸上自衛隊 東部方面隊 第1師団第1戦車大隊A中隊隊長。中倉 和彦一等陸尉です。
総理! そしてこの星の御歴々! 報告をよろしいでしょうか!? 」
地球人にとっては未知の存在である、三種族からの好奇や侮蔑の視線を受けても、全くひるむこともなく駆け込んでくる。
三種族は自分たちの横を行く異能力が何もない人間に、自分達よりも多くの試練に打ち勝ってきた、英雄の雰囲気を感じた。
「総理はここです! 」
真志総理が手をあげると、そこへ和彦一尉は走り寄った。
そして直立不動の姿勢で敬礼し、報告を始めた。
「総理! 我が戦車中隊と、第34普通科連隊第1中隊は、レイドリフト・メタトロンの指導を受けつつ宇宙人居住区を偵察しておりましたが―」
次の瞬間、彼は何かに気づき、後ろを振り向いた。
そして、牢屋の中に座るチェ連高官達を見つけると。
ガン!
騎士たちを押しのけ、思い切り、その牢屋を蹴飛ばした。
「な、中倉君!? 」
真志総理が狼狽した。そして、あのことに思い当たった。
彼女なら、一人の人間に危険な行動をとらせることも、できるのではないか、と思ったのだ。
「泉井君!? 」
振り返った先には、あの色の白い少女が。彼女もうろたえていた。
「わたし、何もしていません! 」
和彦一尉は、腰からP220 9mm拳銃を引き抜くと、檻の外から中の人間たちに銃を向けた。
「お前ら! 俺たちを担ごうってんじゃないだろうな!? 」
すかさず、騎士や真志総理のSP達が飛び出した。
SPが防弾繊維の入ったかばんで、銃口をふさぐ。
「やめろ! 交渉相手を殺す気か!? 」
SPに止められ、和彦一尉も少し頭を冷やし、銃を戻した。
だがこんな乱闘騒ぎでも、チェ連人の反応はうつろだ。
それにさらに苛立った和彦一尉は、一気にまくしたてた。
「チェ連からの情報提供に基づき、宇宙人居住区に行きました。
ですがそこにいた宇宙帝国軍は、装備も取り上げられ、すっかり戦意をなくしていた。
そもそも宇宙帝国自体、とっくの昔に内戦で崩壊していたから、おかしいと思ったんです」
我慢しきれず、和彦一尉はチェ連人に向き合った。
「その後この星に来たのは、ここに取り残された異星人を救うため、家族が送り込んだネゴシエーターや、国交を樹立するための外交官だった!
あんたらは戦う意思も、能力もない彼らを、あの劣悪な環境に押し込めていた!
武装ゲリラなんか、いなかったんだよ! 」
作品名:レイドリフト・ドラゴンメイド 第11話 幻の神力 作家名:リューガ