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レイドリフト・ドラゴンメイド 第11話 幻の神力

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 体力は前よりも落ちている。
「天空をゆく、大いなる翼! 翼の内から放つ炎で、音よりも早く飛べる! 」
 生体で作られたジェットエンジンも、元の姿を取り戻すことはできない。
「すべてを焼き尽くす炎! 」
 口から出るのは、もはや文句だけだ。
「すべて人間より優れている! なぜ、人間と話し合わねばならないのだ!? 人間に我らの問題にかかわる資格などないのだ!! 」
 それでも、無我夢中で足の戒めを引きちぎろうとする。
「ふざけるな! 我々は高貴な存在なのだ! 」

 この時ボルケーナ人間態は、「高貴って、神である私のおもちゃであるってこと? 」と言ってやろうと思った。
 だが、三種族がさらにパニックになりそうなのでやめた。

「おやめください。無理に抵抗せれば、新たな戒めを受けることになりますよ」
 騎士が一人だけ優太郎に話しかけ、近づく。
 先ほどと同じ、恐怖も怒りも感じていない声。
 その両手には、魔法火が連なった鎖を持っている。
 完全になめられていると、優太郎は悟った。
 もはや、足が千切れてもいい! とばかりに、足を激しく動かす!

「なら、仕方がありません」
 進み出た騎士の手の上で、何本もの鎖がひとりでに動きだした。
 やはりヘビのように床を滑ると、優太郎の足から、椅子に縛り付けながら体を登ってくる。
「やめろ! 」
 優太郎の心からの恐怖の叫びだった。
 決死の抵抗もむなしく、火の重さと硬さ。超常の力で椅子につかされる。
 叫びは鎖が空いた口を横切り、猿ぐつわとなるまで続いた。
「うぐっ! うぐっ! 」
 鎖に食いついてあがる唸り声。
 絶息しそうな泣き声に変わり、どこまでも響いていった。

 その様子を見ていた真志総理は、恐怖で神経がざわざわしてくるのを感じた。
 それでも、なさねばならぬことは考えていたから、立ち上がる。
「日本国内閣総理大臣、前藤 真志です。まずは、ちょっとしたカミングアウトを」
 そう言って、ダッフルコートの前を開き始めた。
 だが、彼の手には先ほど瓦礫を持った時にできた傷をかばう包帯が巻かれ、動かしにくい。
「おーい。腹を出させてくれ」
 すぐに「はい」と答え、コートのボタンを外したのは、3人いる公的秘書の一人だった。
「わたしは以前、フリーのジャーナリストをしていましてね、世界中で起こる戦場などで取材をしていました」
 真志総理が話す間も、秘書は慣れない手つきで背広、シャツもめくりあげ、腹をださせる。
「実は私も、異能力者なのです」
 真志総理の痩せた腹には、不自然なへこみがあった。
 腹全体が、不健康な痩せ方をしている。
「もう20年以上前になりますか。ユーゴスラビア紛争と言うのがありました。
 ユーゴスラビアと言う国家があって、国際的位置から『七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家』を持っていました。
 昔はチェ連と同じ社会主義国家のソビエト連邦と言う大国がありました。
 ユーゴスラビアはそのソビエト連邦の影響を受けつつ、距離置きつつ、独自の発展を遂げていきました。
 ですが、その後ソビエト連邦が崩壊しました。
 ユーゴスラビアにも、それまで不満を押さえこまれていた民族主義者が独立紛争を起こし始めたのです」
 次は振り向いて、背中を見せた。
 運よく背骨はそれていたが、そこにも痛々しいへこみがあった。 
「防弾チョッキは着ていましたが、一度弾が当たって古くなっていました。そこに銃撃されたのです。背中から前に貫通し、胃腸は衝撃でぼろぼろに、全て摘出することになりました」
 そう言って、服を着付け直してもらう。
「一命を取り留め、日本に帰ると、年老いた両親にもう海外へ行かないでくれ、と泣いて頼まれました。
 その後は国内でできる仕事を探したのです。
 そんなこともあり、この仕事を決めました」
 服が治ると、ツールボックスに座りなおした。
「この傷は不思議な傷なのです。何か嫌なことが起こりそうになると、痛みで教えてくれるのです。
 ですが、今は痛んでいません。あなた達は、脅威ではなく、友達になれるという事なのでしょうか」
 だが、スイッチア側からは何の反応もない。
「次は、あなた方のことを聴きたい。質問も受け付けますよ」

 真志総理は待った。
 しかし、聞こえるのは息を殺して泣く声と、ボルケーナの確認の声ばかりだ。
 彼にとって、こんなことは初めてだった。
 腹の傷と両親、そして総理への道の話は、地球では必ず人が耳を傾けてくれる。
 まず自分たちに興味を持ってもらい、お互い質問しあう。
 そんな中で、話しやすい精神状態に持っていくつもりだったのだが……。
(だが考えてみれば、私の腹レベルの傷など珍しくないのかもしれないな。
 だったら、誰も知らない物になら、興味をひかれるか? 例えば……)
「ボルケーナさん。改めて説明していただきたいことがあるのですが、よろしいでしょうか? 」
 真志総理の態度は、ツールボックスに座ったまま上半身だけを向けて話す、きわめて砕けた態度だった。
 それを見ただけで、三種族からどよめきが起こる。
 中には卒倒しそうなものもいる。
 イスに固定されていなければ、そうなっただろう。

「どうぞ」
 ボルケーナ人間態からの返事は、きわめて平坦だった。
 だが、その心の中には恨みの炎がめらめらと燃えているように感じられた。
「ありがとうございます。
 あなたが今、操作しているのは惑星規模の放送ネットワークですね」
「そうです。
 もうちょっと詳しく説明すると」
 世界地図に点滅する{ハサハンミ町}と書かれたアイコンを押した。
 小さなウインドウが開く。
 その端を一回押すと、ウインドウはディスプレー一杯に広がった。
 シェルターの天井付近を、ボルケーナの小さな分身である赤い宝石・マジックボイスが飛びまわっている。
 このマジックボイスが撮影した映像が、惑星中に送られている。

 世界地図だったディスプレーに映されたのは、ある住宅地のライブ映像だった。
 かなり高い位置から見下ろしている。
 碁盤の目の様に細かく区割りされた平野に、質素な住まいが車一台分の庭と共にならんでいる。
 その家の陰や道路から、小さな光が無数に飛びかかってくる!
「撮影と配信に使っているのは、私の分身の怪獣です。
 今撃ってきているのは、ハサハンミ町の地域防衛隊。
 装甲車両は無いです。
 武器は自動車に積んだ約60ミリ無反動砲や、約40ミリ自動グレネードランチャー。
 手にはボルボロス自動小銃。
 全部で59人。
 心配は、ご無用です」

 ライブ映像が揺れた。
 同時に、地滑りのような大きな音がする。
 一瞬空が写り、赤く、丸い物を映して止まった。
 丸い物には、大きな割れ目があった。
 割れ目のふちには、細長い突起がならぶ。

 丸い物は、ゴツゴツした岩のような皮膚で覆われた、怪獣の頭だった。
 割れ目は乱食い歯が並ぶ、巨大な口だ。
 その上についた、人間のような二つの目。
 その片方が、ウインクした。
 怪獣の自撮り。