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お蔵出し短編集

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次に僕が目覚めたとき、僕は病院のベッドの上だった。
頭だけがガンガンと痛んだ。
真っ白な部屋の中で、なんで自分がそこにいるのか最初はまったく分からず、どうにか半身を起こすと、枕元のテーブルに携帯電話が置いてあることに気がついた。
僕の携帯電話は所謂ガラケーだ。
メタリックな二つ折りのそれは背中にLEDが付いていて、見てみるとそこが『着信あり』のお知らせをするために、断続的に緑色に点滅しているところだった。
とにかく頭痛と、記憶障害を越えて僕がそのLEDに感じたのは、言いしれぬ不安感だった。
僕はなんだか漠然とした不安というか、あるいは恐怖、もしくは背筋にふにゃふにゃと垂れる氷水のように気持ちの悪い気配を覚えながらも、携帯電話を手にとって、留守番電話機能を再生してみることにした。

そこで僕が聞いたモノは、何と説明すればいいのだろう?
嘆き節?
叱責?
それとも、アレか。
僕の人生に対する一種の『終了宣告』だったのだろうか?

留守番電話は僕のマネージャーからばかり、5件ほど入っていた。
僕は、暴れたらしい。
しかも、およそ思い出したくもなければ、思い出させて欲しくもなく、むしろ何をしたか聞くのすらためらわれる暴れ方で、暴れたらしい。
僕は取り押さえられた。
そして救急車で搬送された。
僕にはそんな記憶はないが、救急車の職員さんを裏拳で殴りつけすらしたらしい。
錯乱していたからと言うことで大事にはならなかったが、それは事態の一面にしか過ぎない。
僕は例えばそれが元で警察に捕まったりと言うことはなかった。
だけど、僕を待ち構えていたのはそれよりも辛い現実だった。
先輩があの日吸っていたのは『脱法ドラッグ』を仕込んだ煙草であったそうだ。
僕はそれを一口吸って、自分を無くした。
まさかあんなに効くとは、とかあのアホ先輩は言っていたそうだが、とにかく最悪に間が悪かったことには、その日その時僕たちがいたのは新作映画の発表会で、僕はと言えばその映画の端役とは言え、セリフがあって劇回しをする瞬間すらある役柄だったと言うことだ。
つまり、そこにはマスコミがいた。
僕が錯乱し、救急車で搬送される一部始終は、きっと最高に美味しいネタであったに違いない。
何しろ次の日のスポーツ新聞にはデカデカとその事が記事になり、その週の週刊誌でも相当のスペースを割いて『危険!芸能界にはびこるドラッグの渦!』みたいな見出しで、名前こそイニシャルではあれ、知る人にはそれが僕であるとはっきり分かる書き方で今回の一件の一部始終が記載されていたのだ。
結果、僕は事務所をクビになりかけた。
しかし、主犯は先輩であること、僕は一口しか吸っていないことなどが考慮され、何とかそれは免れこそしたものの、謹慎は無期限で言い渡されて、先輩は事務所を去ることとなった。
映画の僕の出たシーンは全て編集でカットされた。
おかげで僕はしばらくは噂の的だった。
しかしそれはありがたくないことに、本業の芸能的な何かではなく、『ラリったいち芸能人』として世間には認知されることとなったのだ。
作品名:お蔵出し短編集 作家名:匿川 名