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お蔵出し短編集

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私は彼の家の前で彼と別れ、彼は吸い込まれるように自宅に戻った。
私は隣にある私の家に入り、夕ご飯を食べ、自室のベッドで少し横になった。
天井を見上げると、子供の頃から見慣れた木目模様が眼に入った。
私はその模様をぼんやり眼で追いかけながら、木目の端から端へと心の中で飛び移り、『あれ』が起きないことを祈った。

しかし、

その日も、『それ』は起きた。
激しく荒れ狂う、嵐のような音。
「あんたは!」
と言う絶叫。
その後の言葉はよく分からないが、それを発した人が狂っているのではないかと思うほど気持ちを高ぶらせているのはよく分かる。
陶器が割れる音、バタン、ドスンと言う荒っぽい音。
私は、頭を乗せていた枕の両端を手で押さえつけ、耳を隠そうとする。
聞こえないようにと、思わないようにと、心の中ですら眼を閉じ、耳を塞ごうとする。
それは彼の家から巻き起こる音。
きっと吹き荒れている、圧倒的なまでの暴力と、荒んだ言葉が飛び交う絶望の暴風雨。

作品名:お蔵出し短編集 作家名:匿川 名