お蔵出し短編集
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崩壊は、いつでもささやかな綻びから起こる。
西の大地で、奇跡は呆気なく霧消した。
それは本来皇帝の舵が故に起きた事態ではなかった。
ただ、敵の無理解が、『魔法』として操る奇跡の総量が、些か皇帝の読みから外れていた、と言うだけの事だった。
超えていたわけではなく、外れていた、と言うのが正確で正解だ。
国家が崩壊する時と云うのは、人が息絶える時によく似ている。
寸前までそれは或いは、有り得ないとすら思える事がある。
加えて、とあるいち少女の裏切りが、真逆斯様な結果を生むとは誰が想像しただろう。
勇ましく闘い、ひとつの方向を見つめる圧倒的な忠誠心と愛に裏打ちされた、無双の皇帝の国民と軍隊が、為すすべもないまま摩耗し、摩り切れていく様を目にして、
どうしてその皇帝が嘆き叫ぶ事が無かったのかというならば、
それは彼の者が正に『皇帝』であったからと云う他には無い。
皇帝は嘆かない。
皇帝は涙を流さない。
皇帝は睨まず、泰然とそこにあり、刃を振るう事があれば、それは敵となる者を一刀の元に両断する時ただそれだけである。
―――しかし―――